広報紙 vol.67しんゆりニュースレター
2023/11/1掲載
泌尿器科特集|広報紙
内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ」を用いた手術が特色
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新百合ヶ丘総合病院
腎・泌尿器ロボット手術センター長
泌尿器科 部長 -
【プロフィール】
東京医科大学卒業。東京医科大学泌尿器科。2012年8月より現職。
日本泌尿器科学会専門医・指導医/日本泌尿器科学会ロボット支援手術プロクター認定医/ダヴィンチ手術認定見学施設認定医/日本ロボット外科学会 Robo Doc 国内A認定医(第1号)/日本がん治療認定医機構がん治療認定医/日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡技術認定医/日本内視鏡外科学会技術認定医(泌尿器腹腔鏡)
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2012年8月1日に新百合ヶ丘総合病院が開院してから早11年が経過しました。当時私は東京から多摩川を超え新百合ヶ丘に住まいを移し、何もかもを新鮮に感じていた一方で、私一人で手探り状態のなか診療を始める不安とも戦っておりました。あの日から11年、おかげさまで当院泌尿器科は内視鏡手術支援ロボット「ダヴィンチ(daVinci)」を用いた手術を特色とする科に育ちました。
ロボット支援下手術は開院当初の2012年9月に開始しました。年50件程度であった手術件数も、年を追うごとに増え、現在までに1,200例を超す手術を行うに至っております。当初は前立腺がんのみでしたが、2018年からは腎臓がん、2019年からは膀胱がんに対しても行っております。
ロボット支援下手術を行うに当たって、解剖の理解はもちろん大切ですが、「ダヴィンチ」の特徴を最大限に引き出すための技術の習得が必要となってきます。そのため後進の指導にも努めてまいりました。「ダヴィンチ」は3Dモニターを見ながら手元を操作するため、テレビゲームやパソコンが日ごろから傍にあったデジタルネイティブといわれるような若い世代の先生は技術の習得が早いようです。
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若い先生たちにおくれをとらないよう、私も日々研鑽しております。
ロボット支援下手術のメリットは、非常に繊細で緻密な手術操作が可能なことです。人の手より可動域の大きい鉗子を遠隔操作できるため、骨盤の中など狭い空間での手術に「ダヴィンチ」は向いています。また、鉗子の太さも細いため傷口がとても小さく、出血も少ないため術後の回復が早いのが特徴です。当院でのロボット支援下手術は全国平均の半分程度の手術時間で行っているため、身体への負担がより少なく、従来の手術と比べて術後の回復が早く、退院翌日から手術前と同等の生活を送ることが可能です。
この11年間で築き上げた、「ロボット支援下手術を高水準に行う病院」としての役割を担いつつ、今後はさらに地域の皆様との連携を活かし、皆様のご協力をいただきながら、共に麻生区並びに近隣の方々の健康寿命の延長に寄与していきたいと考えております。
泌尿器科のがん治療
【 前立腺がん 】
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前立腺肥大症とともに、中高年の男性が注意すべき前立腺の病気のひとつです。初期には自覚症状がほとんどありません。しかし、ゆっくりと進行するため、早期に発見して適切な治療を行えば治りやすいとされるがんです。
■ 治療方法
- 待機療法(PSA監視療法)
PSAとは前立腺特異抗原のことで、基準値以上の場合は前立腺がんの疑いがあります。特に治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合、PSA値を定期的に測定してがんを監視していきます。
- 局所的治療
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手術(前立腺全摘術)
- がんが前立腺の中にとどまっていて、10年以上の余命が期待できる場合には、最も治療効果が期待できます。がんを完全に取り去り、治癒することを目的とします。前立腺、精嚢を摘出し、尿道と膀胱を縫ってつなぎます。当院では多くの場合、ダヴィンチによるロボット支援下手術を行っています(開腹手術の場合もあります)。
- 放射線治療…転移のない前立腺がんに対して、治癒を目的として放射線治療を行うことがあります。放射線治療には、体の外から放射線を当てる「外照射法」と、放射性物質を体の中に埋め込む「内照射法(小線源治療)」があります。
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手術(前立腺全摘術)
- 全身治療
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内分泌療法(ホルモン療法)
主に転移のある前立腺がんに対して行われます。転移したがん細胞にも効力が期待できます。また、手術療法や放射線治療の前あるいは後に、短期間の内分泌療法が併用されることもあります。 - 化学療法(抗がん剤治療)…内分泌療法が効力を持たない場合や内分泌療法と組み合わせて抗がん剤治療が行われます。
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内分泌療法(ホルモン療法)
【 膀胱がん 】
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60歳以上になると増加する傾向があり、女性より3倍以上男性に多い疾患です。最初の症状として一番多く見られるのは血尿です。排尿時に痛みを感じたり、下腹部に痛みがおこることもあります。
■ 治療方法
- 手術TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
専用の内視鏡を用いてがんを電気メスで切除する方法です。 -
膀胱全摘術+尿路変更術
- 尿管切断のあと膀胱を摘出し、男性は前立腺と精嚢も摘出します。女性は子宮と膣壁の一部、尿道を摘出します。骨盤内のリンパ節切除を併せて行います。当院ではダヴィンチによるロボット支援下手術、開腹手術を行います。尿を体外に排出するための手術は回腸導管(小腸の一部と尿管をつなぎ、腹部の皮膚にぬいつけて尿を排出する出口「ストーマ」とする)が最も多く実施されていますが、尿管皮膚瘻(尿管断端をそのまま腹部皮膚面に出し「ストーマ」とする)や自然排尿型新膀胱(小腸または大腸を縫い合わせて尿をためる袋、新膀胱をつくり、尿道につなぐもの)なども行われています。
- 化学療法
転移や手術後に再発した膀胱がんに対して抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬による化学療法が治療の中心となります。
【 腎臓がん 】
腎臓がんは腎実質の細胞ががん化し悪性腫瘍になったものです。好発年齢は50~60歳代で、女性と比べて約2倍男性に多いがんです。早期の腎臓がんは症状がないことが多く、健康診断や他の病気での精密検査で偶然発見されるものがほとんどです。転移したがんが先に見つかり、詳しい検査の結果、腎臓がんが見つかることがあります。
■ 治療方法
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監視療法
小さながんの場合に、手術や薬物治療を行わず、画像検査などを定期的に行って経過を観察する方法を監視療法といいます。ご高齢の方や他の疾患があり手術や薬物療法を行うのが難しい方にとって選択肢の一つとなります。 -
手術(外科的治療)
腎部分切除術
腫瘍径が4cm以下の腎臓がんは、腫瘍がある部位を切除する腎部分切除術が行われます。腎部分切除術はダヴィンチによるロボット支援下手術が可能です。腎臓を温存することで、長期的な腎機能の低下を小さくすることができます。 -
根治的腎摘除術
がんのある腎臓を腎周囲脂肪組織も含めてすべて取り除く手術です。がんの状況によっては、腎臓だけでなく副腎などの腎臓周囲の臓器を一緒に切除することもあります。当院では腹腔鏡下手術もしくは開腹手術で行っています。 -
薬物療法
転移がある腎臓がんは薬物療法が中心になります。また、手術を行う前に治療の効果を高める目的で薬物療法を行うこともあります。腎臓がんの薬物療法には分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が使用されます。
【 腎盂・尿管がん 】
腎盂・尿管がんは腎盂・尿管の尿路上皮粘膜より発生する悪性腫瘍です。発生する頻度は膀胱がんと比べて稀です。血尿や側腹部痛の症状で見つかることがあります。尿細胞診検査、造影CTなどの画像検査、逆行性腎盂造影検査、尿管鏡検査などを組み合わせて診断を行います。
■ 治療方法
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手術
転移のない腎盂・尿管がんに対しては腎尿管全摘術・膀胱部分切除が行われます。当院では腹腔鏡下手術、開腹手術を行っています。最近はダヴィンチによるロボット支援下手術も検討されています。尿管や腎盂の深達度によっては、手術の前に抗がん剤治療を行う場合があります。 - 化学療法
転移や手術後に再発した腎盂・尿管がんに対して化学療法が行われます。 化学療法には抗がん剤や免疫チェックポイント阻害薬があります。また、手術後の病理検査結果で再発する可能性が高い方には術後化学療法を行うことがあります。
低侵襲手術支援ロボット ダヴィンチ(da Vinci)
「ダヴィンチ」は、低侵襲技術を用いて複雑な手術を可能とするために開発されました。高画質で立体的な3Dハイビジョンシステムの手術画像のもと、人間の手の動きを正確に再現する装置です。術者は鮮明な画像を見ながら、人の手首よりはるかに大きく曲がって回転する手首を備えた鉗子を使用し、精緻な手術を行うことができます。
ダヴィンチの特長
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・体への負担が少ない
・鮮明な3D(3次元)画像
・精密な動きを再現
ダヴィンチは3つの機器によって構成されています。

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- 「サージョンコンソール」とよばれる操縦席に座り、3D画像を見ながら手元のコントローラーを操作します。
- 「ペイシェントカート」の4本のロボットアームにその動きが伝わります。
- 「ビジョンカート」のモニターに手術中の画像が映し出され、手術スタッフも同じ画像が共有されます。
泌尿器科 医師紹介
①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格・公職等- 荒川 孝 (尿路結石破砕治療センター長)
①尿路結石症の破砕治療および予防 ②北里大学医学部 ③日本泌尿器科学会専門医・指導医/日本尿路結石症学会名誉会員 - 伊関 亮(腎・泌尿器ロボット手術センター長/泌尿器科部長)
①泌尿器疾患全般 ②東京医科大学医学部 ③日本泌尿器科学会専門医・指導医/日本泌尿器科学会ロボット支援手術プロクター認定医/ダヴィンチ手術認定見学施設認定医/日本ロボット外科学会 Robo Doc 国内A認定医(第1号)/日本がん治療認定医機構がん治療認定医/日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡技術認定医/日本内視鏡外科学会技術認定医(泌尿器腹腔鏡) - 石田 卓也(泌尿器科医長)
- 徳山 尚斗(泌尿器科医長)
①泌尿器疾患全般 ②滋賀医科大学医学部 ③日本泌尿器科学会専門医/日本がん治療認定医機構がん治療認定医/日本泌尿器科学会ロボット支援手術プロクター認定医/日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会泌尿器腹腔鏡技術認定医/医学博士 - 村岡 龍(泌尿器科医長)
①泌尿器疾患全般 ②東京医科大学医学部 ③日本泌尿器科学会専門医 - 吉岡 邦彦【非常勤医師】
①悪性腫瘍(特に前立腺がん手術・膀胱がん手術) ②島根医科大学医学部 ③日本泌尿器科学会専門医・指導医