薬剤科コラム

術前中止薬について

薬剤科

2022/7/8掲載

あなたは、内服しているすべてのお薬を医師に伝えられていますか?勝手に中止したり、自己調整していたりしませんか? 「健康食品」や「サプリメント」を服用していることを、主治医は把握していますか?

当院での検査や手術待ちをされている方が多くいらっしゃる中、時折延期になってしまう方も見受けられます。今回は、そういった事例を防ぐために今飲んでいるお薬を正しく医師へ伝えることの重要性についてお話します。

内服薬を正しく医師に伝えましょう

術前中止薬について

検査や手術の前には、必要に応じて内服薬の中止をお願いすることがあります。特に外科手術では、出血量を予測して適切な血液を用意する必要があります。医師が把握していない薬剤の内服があった場合、患者様を危険な状態にさらしてしまうことにも繋がります。現在内服している薬剤、服用状況を正しく主治医へ報告しましょう。

手術前に中止を検討する薬剤として、以下のものが挙げられています。

① 出血のリスクがある薬剤

抗凝固薬、抗血小板薬、血管拡張薬、冠血管拡張薬、脳循環・代謝改善薬など
(ワーファリン®、リクシアナ®、バイアスピリン®、プラビックス®など)

抗凝固薬や抗血小板薬はこれらのお薬は血液が固まるのを防ぎ、細い血管の目詰まりを予防することができるため、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞などの治療や予防のために使われています。手術や処置の種類によっては、出血を増やしてしまい、術中や術後の経過に悪影響を及ぼす可能性があるため、休薬を考える必要があります。

外科の手術の場合、外科医が循環器科などの専門医に休薬についての判断を打診しています。ご自身の判断ですべて内服中止にされる方もいらっしゃいますが、大変危険ですので主治医からの休薬指示を正しく守りましょう。

② 血栓症のリスクがある薬剤

黄体・卵胞ホルモン剤(経口避妊剤:ヤーズ®配合錠など)、骨粗鬆症治療薬(SERM:エビスタ®など)

低用量経口避妊薬(OC)や低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)である月経困難症治療剤に含まれるエストロゲンは、血液凝固機能を亢進させる作用を持っています。公益社団法人 日本産科婦人科学会の「OC・LPEガイドライン 2015年度版」)では、30分を超える手術や、術後に不動を伴う手術では静脈血栓塞栓症リスクが上昇するため、少なくとも手術の4週間前から中止する必要があるとされています。薬剤によって添付文書に記載されている休薬期間が異なる場合があります。服用中止、再開の時期に関しては主治医、処方医に確認をお願いします。

③ 傷の治りが遅くなる・出血を生じる可能性がある抗がん剤及び類薬

抗悪性腫瘍剤 アバスチン®(ベバシズマブ)、サイラムザ®(ラムシルマブ)などVEGF関連薬

副作用として傷の治りが遅くなることや出血が挙げられています。そのため傷の治りに影響を及ぼしたり、術後出血などが現れたりする場合があります。他院での治療を受けている方、治療歴のある方、治療予定のある方は主治医へ相談しましょう。

④ 健康食品・サプリメント

健康食品やサプリメントにも抗血栓作用を含んでいるものや、薬剤の作用を増強または減弱させるものが存在するため、手術に悪影響を与えないように休薬する必要が出てきます。

また、健康食品やサプリメントそのものによる肝障害などの健康被害が報告されています。医師や看護師、薬剤師に健康食品やサプリメントを含めた、現在内服しているものを全て漏らさず伝えることが大切です。サプリメント類が手術に影響を与えうる期間については明らかとなっておらず、術前中止期間に関して一定の基準は定められていません。当院では、『健康食品やサプリメントの内服は一律2週間前からの中止』をお願いしています。平素から健康のために摂取しているものを中止するのは抵抗があることかと思いますが、手術や麻酔を安全に受けていただくため、ご理解とご協力をよろしくお願いします。

お薬手帳を活用しましょう

  • お薬手帳を活用しましょう
  • 内服状況を正しく伝えるためのツールとして、お薬手帳を活用しましょう。

    お薬手帳は医師、歯科医師、薬剤師がお薬手帳の所有者の薬歴を知ることにより、重複投与や相互作用を確認して、薬を安全・適正に処方、調剤するために使用するものです。年齢が上がるにつれて、お薬の量も増えていく傾向にあります。

お薬が増えると副作用のリスクも高まりますが、お薬手帳を一冊にまとめていれば、医師や薬剤師が薬歴を確認しやすく、副作用のリスクが低減します。このお薬手帳に、現在内服している健康食品、サプリメントを記載しておくことをお願いしています。受診の際には、毎回必ずお薬手帳を持参するようにしましょう。

【参考文献】
厚生労働省
公益社団法人 日本産科婦人科学会
内閣府 食品安全委員会
独立行政法人 国民生活センター