2018年11月号 薬剤科コラム

感染症について

薬剤科 南郷 大輔

  • 感染症について
  • ますます秋が深まり、気温も徐々に下がりつつありますが、皆様ご体調の方はいかがでしょうか?
    これから季節は冬に向かってインフルエンザ流行の時期になってきます。万全の体調管理と予防対策を心がけるようにしていただけますと幸いです。

今年は春先に麻疹が発症し、全国各地で大流行しました。その感染拡大のスピードに感染予防対策が追いつかず、結果として全国各地でワクチンが不足するという事態になってしまいました。改めて感染症の怖さを肌身に感じたのではないでしょうか。


皆様は感染症についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?

恐らく、多くの方はバイ菌が体の中に入って感染した際に起こる病気と思っているのではないでしょうか。そのイメージは間違っていませんが、正しくは、環境中「大気、水、土壌、動物(人も含む)など」に存在する病原性の細菌・ウィルス・真菌などや寄生虫(病原体)が、人の体の中に侵入することで引き起こされる疾患を指します。

感染症には主に以下の要因があります。

  1. 感染源:主に病原体に感染した人・動物・昆虫・物・食品など。
  2. 感染経路:主に接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)を指します。
  3. 感染性宿主:宿主とは、主に人を指します。

POINT:接触感染、飛沫感染、空気感染(飛沫核感染)について

接触感染:「病原菌が付着したタオル・容器」や「皮膚同士の接触」によって起こる感染。
(例;ノロウィルス、O-157など)

飛沫感染:くしゃみなどをした時に出る細かい水滴、しぶきによって起こる感染。
(例;インフルエンザウィルスなど)

空気感染(飛沫核感染):空気感染は空気中を漂っている病原菌によって起こる感染。
(例;結核、はしかなど)

これらの要因を考慮した上で、感染症対策を迅速に講じる事が非常に重要となります。

当院におきましては、医師、看護師、薬剤師や検査技師など各業種の職員が集まって感染症対策チーム(ICT:Infection control team)を形成し、院内における感染症の発症・拡大の防止等について日々努めています。その中でも、薬剤耐性菌の問題は死亡率が高い為、非常に重要な問題となっています。 今回は感染症の中でも、耐性菌と感染予防策について皆様にお話ししたいと思います。

Ⅰ 耐性菌について

薬剤耐性菌(多剤耐性菌)は抗菌薬(抗生物質)が効かなくなった細菌の事を指します。古くは、1950年代のペニシリン耐性の黄色ブドウ球菌の発生を皮切りに時間の経過とともに徐々に耐性菌の種類も拡大しつつあります。又、耐性菌の問題は抗菌薬(抗生物質)の入手が容易である世界各国で不適切な使用が要因となって拡大し、大きな問題となっています。

耐性菌について

耐性菌の問題は、病院内だけにとどまらず、病院外でも問題になっています。昨今のグローバル化に伴い、海外で薬剤耐性菌(多剤耐性菌)に感染し、人や輸入される食品等を通じて日本に持ち込まれる例が報告されています。その中には今まで日本に存在しなかったタイプの薬剤耐性菌が持ち込まれた事例もあります。

最近では耐性菌の問題が日本国内だけではなく、世界各国で問題となってきました。2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットにおいても、薬剤耐性菌(多剤耐性菌)の対策が議題に取り上げられ、その対策の強化が掲げられました。


・2050年における死亡原因と世界における薬剤耐性による推定死亡者数

  • 2050年における死亡原因と世界における薬剤耐性による推定死亡者数
  • 2050年における死亡原因と世界における薬剤耐性による推定死亡者数

(参照元:国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター)

代表的耐性菌の種類

耐性菌

  • メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA
  • ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)
  • 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌
  • βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性(BLNAR)インフルエンザ菌
  • 多剤耐性緑膿菌(MDRP)
  • 多剤耐性アシネトバクター(MDRA)
  • 多剤耐性結核菌(MDR-TB)

(参照元:国立感染症研究所)

問題となっている耐性菌

国内で多い耐性菌

  • MRSA、薬剤耐性肺炎球菌(βタクタム耐性、マクロライド耐性)BLNAR、キノロン耐性グラム陰性桿菌、キノロン耐性淋菌

今後増加が懸念される耐性菌

  • バンコマイシン耐性腸球菌・黄色ブドウ球菌、キノロン耐性肺炎球菌、市中肺炎型MRSA、ESBL産生菌、メタロβラクタマーゼ産生菌、MDRP、サルモネラ

薬剤耐性が起きてしまう主な要因としては、不適切な抗菌薬(抗生物質)を長期に渡って使用する事などが挙げられます。耐性菌は主に以下のようなメカニズムで耐性を獲得します。

今後増加が懸念される耐性菌(参照元:国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター)
  1. 細菌自体を覆っている膜を変化させて、薬が入って来づらくする(外膜変化)
  2. 細菌に入ってきた毒を外に汲み出してしまう(排出ポンプ)
  3. 細菌の中で抗菌薬が作用する部分を変化させ、いざ抗菌薬が入ってきても効果が出ないようにしてしまう(DNAやRNAの変異)会参加…友達と一緒に食事をとる
    サークル活動やボランティア活動に参加する
    習い事をする など
  4. 細菌に届く前に化学反応で分解してしまう(ベータラクタマーゼ)
  5. 大量のネバネバ液で細菌自体を覆い、薬から身を守る(バイオフィルム)

このようにして耐性を獲得した細菌は速い速度で拡大していきます。その為、感染症が起きた場合はその拡大防止と適正な抗菌薬使用が非常に重要となり、特に抗菌薬の使用は、重要な課題になっています。

POINT:感染と感染症の違いについて

感染:ウィルスや細菌などの「病原微生物」が、ヒトの体内に入り、増殖すること。

感染症:病原微生物により、発熱や生態の防御反応など、好ましくない反応が引き起こされた状態。

現在、国をあげてこのような耐性菌の拡大を防ぐ為に、薬剤耐性菌対策(AMR:Antimicrobial resistant)をするように全国各地の医療機関に働きかけています。病院を始めとした医療機関は、入院患者や外来患者に対して適正な抗菌薬使用を推進する活動を6項目に渡って行う事を提案しています(次表)。

薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン

分野 目標
1.普及啓発、教育 薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進
2.動向調査・監視 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を適確に把握
3.感染予防・管理 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止
4.抗微生物剤の適正症 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進
5.研究開発・創薬 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進
6.国際協力 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進

(参照元:厚生労働省 薬剤耐性(AMR)対策について)

耐性菌拡大の防止を目的としたこのような活動は、多くの医療機関で行っていくべきであり、当院でも取り組みはじめています。

薬剤耐性対策については医療機関だけでなく、個々人が実施することも出来ます。以下にそれらをご説明させて頂きます。

風邪に抗菌薬は効きません。

抗菌薬(抗生物質)は細菌が原因となる感染症に効果がある薬剤です。風邪は、ウィルスが鼻やのどにくっついて炎症を起こし、くしゃみ、鼻水、せき、たん、のどの痛み、発熱などが出ることを言います。風邪の原因はウィルスであるという点が大切で、細菌ではありません。風邪の症状はいずれも体内の免疫がウィルスと戦っているサインとなります。但し、症状によっては必要な対応が異なる場合があるので診察を受けた医師の指示に従ってください。

今後増加が懸念される耐性菌


処方された抗菌薬は正しく服用しましょう。

処方して頂きました抗菌薬(抗生物質)ですが、きちんと最後まで飲んでいらっしゃるでしょうか?この事は耐性菌を拡大させないためにとても大事な事です。

抗菌薬(抗生物質)は、細菌と戦う薬で有る為、細菌による感染症に対して処方されます。細菌にはいろいろな種類があり、それぞれの細菌に効果を示す抗菌薬(抗生物質)は異なります。又、処方された用法・用量は年齢、体格、腎臓や肝臓の機能などを考慮して、ちょうどよい量に調整されています。その為、処方された飲み方を守ることは、病気を確実に治すため、抗菌薬による副作用を減らすため、とても重要です。又、処方された薬は他の人からもらったり、他の人へあげたりすることなどもやめましょう。


今後増加が懸念される耐性菌

「よくなってからもまだ飲むの?」と思われる方もいると思います。良くなったからといって、ここで抗菌薬をやめてしまうと、まだ体内に残っている細菌が原因で症状が再発してしまう可能性があります。原因の細菌を完全に退治する為に処方された抗菌薬は全て飲み切りましょう。「薬を飲む期間はなるべく短いほうがよいのではないか」と思う方もいると思いますが、大切なことは、服用期間の長さではなく、処方された期間きちんと飲むことです。抗菌薬を必要とする期間は原因によって大きく異なり、月や年の単位で抗菌薬(抗生物質)を飲む必要がある場合もあります。

抗菌薬を処方された量で、処方された回数で、処方された期間飲まないと、細菌感染症が治らないだけではなく、薬剤耐性菌が生まれる可能性があります。


Ⅱ 基本的な感染予防対策(手洗い、ワクチンなど)

病気になって抗菌薬が必要になる前に、事前に対策をする事も重要です。主な感染予防策は、主に3つあります。

今後増加が懸念される耐性菌


私達が感染する病原体(細菌やウイルス)の多くは、私達の手に付着します。その手で鼻や口などに触れると、その病原体が体内に侵入し、感染が成立します。又、私達が病原体の付いた手で色々な物に触れ、周りのヒトがそれらに触れることで、感染(細菌などの拡散)が拡がります。手洗いをすることで、手についた病原体がからだに侵入するのを防ぐだけでなく、周りのひとに感染を拡げることを防ぐことも出来ます。手洗いは、私達が日々の生活の中でできる、きわめて有効な感染予防策となります。


ワクチンでも感染症を予防できます。ワクチンを打つと、病原体に対して免疫を獲得します。そうすると、その病原体がからだに侵入しても、病気にならない、または病気になっても症状が軽くすむようになります。例えば、ワクチンで予防できる細菌感染症には、肺炎球菌感染症、インフルエンザ桿菌(Hib)感染症、破傷風、百日咳などがあります。これは、安全で有効なワクチンを子どもたちに接種し、社会全体で子どもたちを守るためのものです。又、昨今グローバル化が進んでいることから、海外へ渡航される成人の方々も多いと思います。その際も、特にアフリカを始めとする発展途上国においてはマラリア等による感染症にかかる可能性もありますので、渡航前に接種する事も非常に重要です。ワクチン接種をご希望の際は、受診先の医療機関へ予め問い合わせしてから来院するようにしましょう。


感染症の問題は、日本国内だけでなく、世界規模で対策を取らなければならない課題となっており、いかに早く対策をとるかが感染症の発生と拡大を抑える上で重要です。耐性菌の問題は、国や医療機関が先導して対策をとるとともに、多くの方がこの問題について理解し、協力していく事が必要です。その結果、後世の人たちが耐性菌に脅かされない環境を維持する事が可能となります。

(参考元)
1)国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター
2)厚生労働省 薬剤耐性(AMR)対策について