薬剤師コラム
小児急性胃腸炎と経口保水療法
薬剤科
2017/11掲載(更新2024/8/6)
胃腸炎とは
胃腸炎とは、胃、小腸、および大腸において炎症が生じている状態をいいます。多くは感染性胃腸炎であり、薬剤や化学的毒性物質(金属、植物性物質など)の摂取後に発生する場合もあります。感染は食品、水、またはヒトからヒトの経路を介して生じます。米国では、毎年6人に1人が食中毒にかかると推定されており、症状には食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、腹部不快感などがあげられます。
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本邦において、最も頻度の高い胃腸炎はウイルス性であり、その原因の大半はロタウイルスとノロウイルスであるとされています。ロタウイルスに関しては2011年から本邦でもワクチンが承認され、その予防効果が高いことからロタウイルスワクチンの接種は推奨されています。
胃腸炎の症状
一般に、発症は突然で、食欲不振、悪心、嘔吐、腹部痙攣、下痢が発生します。倦怠感、筋肉痛、および極度の疲労が起こることもあり、腹部は膨満し、軽度の圧痛を呈することがあります。ウイルス性胃腸炎で最もよくみられる症状は水様性下痢で、乳幼児におけるロタウイルス胃腸炎では5~7日間続くことがあります。90%の患者では嘔吐がみられ、約30%で39℃を超える発熱が生じます。
ノロウイルスでは急性発生の嘔吐、腹部痙攣、および下痢を引き起こし、症状は1~2日間続きます。小児では、下痢より嘔吐が著明となりますが、成人では、下痢が著明となることが多いです。また発熱、頭痛、および筋肉痛も起こることがあります。
胃腸炎にならないためには
ロタウイルスに対しては2つの経口弱毒生ワクチンが使用可能で、その接種は乳児を対象とする推奨予防接種スケジュールに組み込まれています。
感染性胃腸炎では、無症候性感染の頻度が高く、多くの病原体(特にウイルス)はヒトからヒトへ容易に伝播するため、感染の予防は複雑です。一般に、食品の取り扱いおよび調理に注意を払うことが必要です。旅行者においては、汚染の可能性がある飲食物を避ける必要があります。
プールなどの水を介した感染を予防するため、下痢症状がある人は泳ぐことを避けることが必要です。また、プールで泳ぐ場合には、水泳中に水を飲み込まないようにするなどの感染防止のための指導も必要です。
乳幼児ではおむつのチェックを頻回に行い、水の近くではなく、トイレで交換するなどの工夫が必要です。
新生児および乳児への感染は、母乳栄養である程度予防することができます。養育者(親など)は、おむつを交換した後は石鹸と水で手を徹底的に洗い、おむつを交換する場所はその都度調製した家庭用漂白剤で消毒をする必要があります。
下痢がみられる小児は、症状が持続している間は保育施設に通わせないなど、周囲への感染拡大を防止する配慮が必要です。
経口補水療法
1992年に米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and prevention:CDC)は小児急性下痢症のためのガイドラインを発表した後、2003年にその内容を更新し、小児急性胃腸炎の治療ガイドラインといえるものを発表しました。その他にも、世界消化器病学会(World Gastroenterology Organisation:WGO)、世界保健機構(World Health Organization:WHO)、英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)、欧州小児栄養消化器肝臓学会(European Society for Paediatic Gastroenterology、 Hepatology and Nutrition:ESPGHAN)からガイドラインが次々と発表され、小児急性胃腸炎の治療標準化は世界的な広がりを見せています。近年、本邦でも、欧米と同じように急性胃腸炎の脱水治療に対して、経口補水療法が注目されるようになってきました。そのような中、日本小児救急医学会は小児急性胃腸炎診療ガイドラインを発表しました。
本邦のガイドラインの中で、経口補水療法は小児急性胃腸炎の軽度から中等度脱水の中心として説明されています。
経口補水療法(Oral Rehydration Therapy:ORT)とは急性胃腸炎による脱水を予防もしくは補正するために、経口補水液(Oral Rehydration Solution/Oral Rehydration Salts:ORS)を用いて、水分と電解質を経口もしくは経鼻胃管により投与する治療法であと説明されています。そして、経口補水療法の目的は2つあります。
- 1. 補水相:下痢や嘔吐により喪失し、現在不足している水分と電解質を補充する
- 2. 維持相:下痢や嘔吐が持続することにより喪失していく水分と電解質を補充する
大まかには、軽度から中等度の脱水がすでに存在する場合には、補水相から開始し、4時間程度をかけて脱水を補正することを目標とし、脱水が補正された後、速やかに維持相の治療に移行し、嘔吐や下痢で失われていく水分と電解質を補充していくことになります。
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本邦で入手できる経口補水液(ORS)にはOS-1、アクアライトORS、ソリタ-T配合顆粒2号、ソリタ-T配合顆粒3号がありますが、欧米の勧告レベルに相応するものはOS-1、ソリタ-T配合顆粒2号になります。それでも、ナトリウム濃度が低い製品が多く、欧米の勧告よりも低くなっています。そのような製品の塩味であっても、成人はある程度我慢して飲めますが、こどもの場合にはどうしても飲めない子がある程度の割合で存在します。この味覚にかかわる点は今後の課題となっています。
家庭でできる治療法
世界中のどの国でも下痢の治療は通常、家庭で開始するのが一般的です。合併症を伴わない下痢に対して看護者(親など)が、①脱水症状の兆候に関して適切に指示を受けている、②こどもの状態が悪化したことを判断することができる、③治療が奏効していないことを判断することができるようであれば家庭で治療を開始することができます。
急性下痢症のこどもが医師の診察を必要とする状況の目安
- 乳児(6か月齢未満または体重8kg未満)であること
- 早産の既往、慢性疾患または併発症がある
- 3か月齢未満の乳児では38℃以上、3~26か月齢の乳幼児では39℃以上の熱がある
- 目視できる血便がある
- 頻回かつ多量の下痢を含め、排出量が多い
- 嘔吐が持続している
- 看護者から脱水症と一致する徴候の報告がある(眼のくぼみ、涙の減少、粘膜の感想。排尿の減少など)
- 精神状態の変化がある(興奮性、感情表現が乏しい、半ば眠った状態で強い刺激を与えないと覚醒・反応しないなど)
- すでに投与している経口補水液がそれほど奏効しないか、看護者が経口補水療法を行う事ができない
経口補水液(ORS)を自宅に常備していない場合には、下図のようにして作成して代用することもできます。

しかしながら、この手製の経口補水液(ORS)は必ずしも正確ではないため十分な電解質補給ができない可能性もあります。現在は様々な経口補水液が市販されていますが、市販の経口補水液(ORS)がすぐに入手できない場合の緊急避難的措置として用いるとよいです。
また、WHOでは下表のような経口補水療法を示していますので参考にするとよいでしょう。
初期補液
4時間で体重(㎏)×75mL もしくは以下の通り
年齢 | 4か月未満 | 4~11か月 | 12~23か月 |
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体重 | 5㎏未満 | 5~7.9㎏ | 8~10.9㎏ |
投与量(mL) | 200~400 | 400~600 | 600~800 |
年齢 | 2~4歳 | 5~14歳 | 15歳以上 |
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体重 | 11~15.9㎏ | 16~29.9㎏ | 30㎏以上 |
投与量(mL) | 800~1200 | 1200~2200 | 2200~4000 |
初期補液中に脱水が改善しなければ、必要に応じ、成人では750mL/時、小児では20mL/㎏/時まで追加してもよい
維持療法もしくは脱水予防
排便のたびに、 2歳未満:50~100mL、2~10歳:100~200mL、年長児および成人:飲みたいだけ
投与方法
乳児と幼少児はスプーンやコップで与える。哺乳瓶は使うべきではない。乳児ではスポイトや針なしの注射器は口の中に少量ずつ与えることができる。2歳以下の小児では、1~②分ごとにティースプーンで与える。年長児ではコップから直接、頻回にすすってもよい。嘔吐をする児では、5~10分待って、それから再度、経口補水液を与えるが、もっとゆっくりと(例:ティースプーンで2~3分ごと)
- 【参考】
- 1) メルクマニュアル
- 2) 小児急性胃腸戦診療ガイドライン2017年版
- 3) 小児における急性胃腸炎の治療 経口補水、維持および栄養学的療法