看護師コラム

ペリネイタル・ケアについて

産科病棟 山下 康子助産師

2022/10/28掲載

はじめに

「誕生死」という本をご存じですか?

  • 誕生死
  • 初めてこの言葉を聞かれる方も多いのではないでしょうか。
    この言葉は、この本を出版するにあたりつくられた造語とのことですが、「誕生死」とはいわゆる「死産」のことを表しています。

    この本には、出産前後に赤ちゃんを亡くされた13名の父母の方の実体験がありのままに綴られています。英語では死産のことを「STILLBORN」と言います。直訳すると「死産の」という意味ですが、「STILL」には様々な意味があり、「それでもなお」という深い含みがあるそうです。つまり死産児は「STILLBORN BABY」=「それでもなお生まれてきた赤ちゃん」ということになります。

厚生労働省¹⁾によると、令和3年度の死産数(妊娠12週以後の死産)は16,277件、周産期死亡数(妊娠22週以後の死産に生後1週未満の死亡を加えたもの)は2,741件でした。つまり、妊娠12週以降から出生後1週間以内に赤ちゃんを亡くされた方は19,018人ということになり、率にすると23.1%になります。

これに生後4週未満の死亡や生後1年未満の死亡を加えると数はもっと多くなり、妊娠された方のうち実に10人に約2.5人の方が早期にわが子とのお別れを経験していることになります。こんなにたくさんの方が辛い経験をされていることに驚かれる方も多いのではないでしょうか。それは、このような経験があまり公に語られることが少なく、周囲が気付くことが少ないからです。

ペリネイタル・ロスとペリネイタル・ケア

  • 誕生死
  • 流産や死産、新生児死亡など、周産期の死別による喪失を「ペリネイタル・ロス」と言います。そして、その死産時のケアを「ペリネイタル・ケア」と言います。大切な赤ちゃんを亡くす喪失感や悲しみは、他人にははかり知ることができないほど大きなものです。それでも、私たちはその悲しみに寄り添い、悲しみを分かち合い、ご家族と赤ちゃんが貴重な時間を過ごすことができることを願って、日々ケアを行っています。

いつの日か、「死産」という辛いだけの記憶ではなく、「それでもなお生まれてきてくれた赤ちゃん」との出会いの時間、誕生の瞬間だったのだと思うことができるようにと願っています。なぜならば、生も死も同じようにかけがえのないものだからです。

出産は無事に生まれて当たり前だと思われていますが、新しい命が宿り、その命が育っていくことは奇跡のように尊いことなのです。

【参考文献】
1) 厚生労働省:令和3年(2021)人口動態統計数(確定)
2) 流産・死産・新生児死で子をなくした親の会(2002)「誕生死」三省堂