看護師コラム

大人の発達障害について

精神看護専門看護師 中嶋 須磨子看護師

2022/8/10掲載

大人の発達障害とは

近年、「アスペルガー」「発達障害」という言葉をよく耳にするようになりました。日本で「発達障害」が知られるようになったきっかけは、2000年に出版された「片付けられない女たち」(サリ・ソルデン著)だと言われます。2005年に「発達障害者支援法」が制定され(2016年改正)、NHK等のマスコミでも盛んにキャンペーンを行っていました。さらに、最近では「大人の発達障害」にも関心が集まっており、テレビや本、雑誌の特集なども多く見かけます。

「発達障害」をひとことで言うと、“脳機能の部分的なかたよりがある状態”です。つまり、これは「生まれもっての特性」なのですが、子どもの頃にはあまり症状が目立たず、「少し変わった子」として見過ごされてきた人が、社会に出て人間関係や仕事がうまくいかなくなり初めて気付くといったケースが少なくありません。

職場で問題視される具体例

  1. 上司や同僚が言ったことが理解できない
  2. 相手にうまく伝えることができない
  3. 好ましくない言語表現を行い、相手を不快な思いにさせてしまう
  4. 相手の気持ちを無視して自分の好きなことをしゃべり続ける
  5. 感情的になりやすく、癇癪(かんしゃく)を起こす

(梅永雄二,大人のアスペルガーがわかる,朝日新聞出版,2015,P92—93.より一部抜粋)

発達障害の特徴

精神科の診断基準DSM‐5では、発達障害は7つに分けられています。しかし、それらの境界は曖昧な上、複数の特性をあわせ持っている人も多く、どんな能力に障害があるか、どの程度なのかは人によって様々です。以下の表は、代表的な発達障害とその特徴です。

自閉症スペクトラム(ASD) 臨機応変な対人関係が苦手。特定のことに強い関心を持っていたり、こだわりが強かったりする。
注意欠如・多動症(ADHD) 集中できない。うっかりミスや忘れ物が多い。感情のコントロールが難しい。
学習障害(LD) 知的発達には問題がないが「読み、書き、計算」のいずれかが苦手。

治療や支援

抑うつ気分や不安といった2次的な症状を軽減するために、抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定薬などを用いることがあります。薬ですべての問題を解決することはできませんが、「生きにくさ」を軽減する効果はあります。その他、行動療法、環境調整、就労支援などが実施されます。

自分でできること

生まれつきのものであり、自分自身を責める必要はありません。社会的なスキルを身につけるため、周囲の人の協力を得ながら、自分のどのような行動が誤解を与えやすいのかを知ることから始めましょう。また、特性をマイナス面ととらえず「得意分野」と考え、それを生かした仕事をすることで才能を発揮する可能性もあります。

周囲の人ができること

まずは、その人の特性を正しく理解しましょう。そして、その特性を治そうとするのではなく、その人に合った工夫や配慮を柔軟に考えることが重要です。以下は、周囲の人ができる具体的な支援方法です。

  1. 「当たり前」「常識」をあえて説明しましょう。
  2. 具体的、端的、率直に話しましょう。
    例)「適切に」「きちんと」「だいたい」など、間合いを図る表現は苦手。「何分間」「あと何回」のように具体的に伝えます。「今から〇〇をやって下さい。15分やって、出来たところまでを私に見せて下さい」などと端的に伝えるとよいでしょう。
  3. 視覚的なもので補足し、わかりやすくしましょう。(メモ、図式、絵など)
  4. 実際に見本やお手本を示します。自分で考えさせても答えは出てこないことが多いです。
  5. 「気持ち」より「行動」に焦点を当てましょう。
  6. 「してはいけない」よりも「こうするといいよ」の具体例を示しましょう。

最後に

  • 人はそれぞれのペース・やり方で発達していきます
  • 精神的な問題がない場合や、自分も周囲も困っていない場合は、治療する必要はありません。しかし、なんらかの「生きづらさ」を感じる場合は、発達障害の診療を行っている精神科や、各都道府県の発達障害者支援センターに相談してみるとよいでしょう。