2021年6月掲載

不妊治療と保険診療

不妊症看護認定看護師 板井 芳美

不妊治療の保険診療化

  • 不妊治療と保険診療
  • 菅政権がうちだした不妊治療の保険診療化について、厚生労働省が来年4月の実施に向けてのスケジュールを発表しました。最近、多くの患者さんより「来年の保険適用になるときまで体外受精は待ちます」といった声が聞かれます。不妊治療の現場にいる私達にはそのような情報は入っていません。ネットで調べてみると、不妊治療に関連する企業のHPに「決定」と書いてあったり「予定」と書いてあったり・・・。

結論として、あくまで「予定」です。保険診療化になるには様々なハードルがあります。 不妊治療は皆さんご存知のように、ほぼ自費で行っていますが、自由診療だからこそ病院ごとの治療があり、患者さんへの【オーダーメイド】な不妊治療ができています。

普段は保険適応では使えない薬を自費で購入していただくことで、その薬の作用を利用しながら不妊治療が行えます。体外受精は特に、連続不成功の場合は「次はこうしていこう」と様々なメニューから医師がその患者さんにあったものを試していき、病院独自の治療も行うことができます。また、結果がでなければ他の病院で治療を継続させることもできます。これが保険診療ではなかなかできないことです。ですので、不妊治療のメニュー全てが保険適用されるとみるのは難しいという専門家の意見もあります。

混合診療

では、「混合診療」にして自費負担と保険負担を分けようという意見もあります。みなさん、この混合診療は現在の保険診療では行われていないのはご存知ですか? まずひとつは「保険外の負担を求めてしまうことが一般化されると患者の負担が不当に拡大する恐れがある」次に「安全性・有効性が確認されていない医療が保険診療として実施されてしまうと特殊な医療の実施を助長する恐れがある」という理由です。よって不妊治療のひとつひとつを保険適用対象に選定していく線引きは難しく、保険適用拡大の実現には一定期間かかると考えます。

もちろん保険診療化は患者さんにとっては朗報です。不妊治療の保険診療化は長い間声が上がっておりやっとここまできた印象です。保険適用化までの政策として不妊治療助成金制度の拡充も今年1月より始まり、特に年収制限がなくなったことで助成金がうけられるご夫婦が増えたと実感しています。もし体外受精へのステップアップに迷っているならまずはこちらの制度を利用してはいかがでしょうか(42歳までの年齢制限あり)。

最後に

保険診療化に対する個人的な意見ですが、「不妊治療は年齢との勝負であるため、保険診療化を待つために治療の機会が遅れてしまわないか」「保険診療で経済的な負担が減り治療を受けやすくなることで、治療のやめ時が決めにくくなるのでは」「すべての不妊治療が保険診療化するかわからない」と思います。保険診療化まで待つのも良いですが、治療の長期化も考え、ご夫婦の年齢や不妊の原因も考慮してほしいと思います。

  • 不妊治療と保険診療
  • 金銭的な問題は解決しても、身体的・精神的・時間的な負担が不妊治療には残ります。 仕事との両立ができないと治療がつづけられない現実もあります。医療機関側の努力で改善できるものがあれば一緒に考えていきたいと思いますので、治療への不安やご質問があれば当院の不妊症看護認定看護師にご相談ください。

一組でも多くのご夫婦が赤ちゃんを抱けますように。

参考資料:厚生労働省HP
※2021年6月6日時点での内容に基づいたコラムとなっております。