2020年3月掲載

がんと生殖医療

不妊症看護認定看護師 板井 芳美

  • がんと生殖医療
  • 「がんは万が一じゃなく二分の一。」というCMのキャッチコピーを聞いたことがありますか? 日本人の生涯で、2人に1人はがんになるといわれています。(国立がん研究センターがん情報サービス 2013年データより)がんに罹患した方の年齢による変化では、男女ともに50歳代くらいから増加し、高齢になるほど高くなっていきます。

しかし、がん検診の周知により、早期発見・早期治療が可能になり、さらにがん治療の進歩によって多くの患者さんが「がん」を乗り越えることができるようになりました。がん患者さんの長期生存が見込まれてきた結果、治療中・そして治療後も「がんと共に生きる」という意識に変化しています。

がん治療後に、妊娠機能の低下や消失に気付くことも

がんは高齢者の方だけではありません。小児期、青年期の世代にも発症します。若年層のがんの生存率が延びてきたことから、特にAYA世代とよばれる、15歳~30代までの若年層に新たな課題が生まれました。注目すべきは、彼らが「生殖年齢」といって妊娠・出産が可能な世代であることです。
がん治療は、手術療法・化学療法・放射線療法を中心に行いますが、若年患者さんへのがん治療で問題になるのが、これらの影響による将来の「妊娠する機能の低下や消失」の可能性です。
 がんと診断されたとき、年齢が若いほど、がん告知をうけとめきれないまま治療がはじまることは珍しくありません。ただ生きたいと願い、家族も本人も治療に託します。そしてがんを克服し日常生活に戻ると、月経の異常や不妊にきづくことがあります。自分は恋愛や結婚・出産ができるだろうか?「若年がんと共に生きる」ということはこのような問題があるのです。

妊よう性を温存する治療ができるようになりました

近年、この生殖年齢における(小児期のこれからの世代も含めて)「妊よう性(妊娠するための力)を守る」という新しい選択を適切にできることを目的に「がん・生殖医療」という新しい分野が生まれました。がんの診断をうけたとき、不妊のリスクの説明をうけ、がんの治療を最優先とし時間的な猶予があれば、本人が妊よう性温存治療を選択できるよう、生殖専門分野との連携が注目されています。その専門分野とは不妊治療です。不妊治療の技術が利用され、がん治療前の精子・卵子・受精卵を凍結保存し、将来それらを用いて出産することが可能になりました。海外を含め、がん治療後に赤ちゃんを授かることができたカップルが多くいらっしゃいます。

がんを乗り越えた後の希望を残すサポートをします

  • 手術前のお口の手入れ
  • 生殖医療に携わる看護師として、がん治療を始める方に対し「がん」を乗り越えた後の希望を残すサポートをしていく必要があると考えます。

当院リプロダクションセンターでは、がん治療を始める方に対して将来の妊娠の可能性を残すための精子凍結・受精卵凍結が可能です(卵子凍結は実施しておりません)。まずは、ご自身のがん治療が将来の妊よう性に影響があるか、がん治療主治医にご相談ください。もし、妊よう性温存に興味のある方は当院リプロダクション外来に相談することができます。
 不妊症看護認定看護師が、がん克服後の多様な人生に力になれますよう、ご相談をお待ちしています。