ドクターコラム

検診の胸部異常陰影(肺癌疑い):検査、治療(外科編)

呼吸器外科 部長  松谷 哲行

掲載日:2024年11月13日

  • 肺癌疑いで驚いているイメージ
  • 毎年約12万人が肺癌に罹患し約7.6万人が肺癌で死亡しています。肺癌は、わが国で最も死亡数の多い癌です(男性1位、女性2位)。肺癌の全体の5年相対生存率は34.9%で、厚労省が指針で示す5つのがんの中で最も低いです。

癌の進行度は限局、領域、遠隔に分類されます。限局はその臓器にとどまっている癌であり、検診、人間ドック、他疾患の精査などで偶発的に発見されることが多く、一方で遠隔は多臓器に転移進展している癌であり、何かしらの症状があり発見されることが多いです。肺癌の進行度別5年相対生存率では、限局83.5%、領域31.1%、遠隔6.4%となっています。胸部異常影で偶発的に発見される限局の場合は切除することで治癒することも期待できます。

胸部異常陰影を指摘されたら

  • 肺癌疑いで驚いているイメージ
  • 検査は、主に呼吸器内科が担当します。
    指摘された異常陰影は高分解能CT(high-resolution computed tomography,HRCT)を用いることで、現在では画像の特徴から概ね肺癌か否か予想がつきます。

指摘された陰影を診断するには、気管支鏡検査やCT生検を行います。生検が困難な部位の際は、HRCT所見に合わせて過去の画像との比較や経時的(3-6か月後)経過観察で増大傾向の有無を参考に肺癌の診断を進めます。

肺癌の進展具合(全身転移の有無を含め)をPET-CTや脳MRIを用いて病期を決定します。限局および領域の一部(臨床病期I期からIIIA期まで)は手術療法が選択されます。広範囲に癌が進展している領域の残りと遠隔(臨床病期IIIB, IIIC, IV期)は術による治療効果が期待できないため化学療法(±放射線療法)を行います(呼吸器内科が担当)。

最新の肺癌の手術療法

ここからは、呼吸器外科が担当します。
手術を行うことで治癒が期待でき、かつ手術に耐えられる患者のみを対象とします。(手術しても治癒が期待できない、もしくは手術に耐えられず手術することで全身状態が悪化する恐れのある場合は手術の適応から外れます)

肺は、右肺に3つ(上葉、中葉、下葉)、左肺に2つ(上葉、下葉)の袋(葉)があります。癌が存在する袋(葉)を切除(肺葉切除)し、所属するリンパ節を切除(郭清)することが標準的な治療となります。最近の研究の成果で、画像上充実成分が少ない場合は肺葉切除より切除範囲が小さい区域切除が選択されます。

従来は、肺葉切除するために背中から側胸部にかけて20㎝ほど皮膚切開し肋間を開胸器(万力のような器具)を用いて大きく開胸して直視で見て直に触りながら手術しました(開胸術)。1990年代から胸壁に1㎝ほどの孔を3-5か所あけて胸腔鏡というカメラを用いて鉗子という道具で肺葉切除を行うようになりました(胸腔鏡手術)。2018年からは内視鏡手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)」を用いたロボット手術が保険適応となり立体視をしながら多関節の器具を用いてより低侵襲な手術になりました(ロボット手術)。

視野 操作
開胸手術 20㎝ 直視 直達
胸腔鏡手術 3-5つの孔 2Dカメラ 鉗子
ロボット手術 5つの孔 3Dカメラ 多関節器具

当院の特徴としては、ERAS: enhanced recovery after surgery (術後回復力強化プログラム)を行っていることです。その主たるものは、①ロボット手術「da Vinci」を用いた低侵襲手術②術後1時間30分後の早期離床③手術翌日に自宅退院する早期退院です。

肺葉切除における他施設との共通事項

  1. 全身麻酔、分離肺換気(片肺換気)
  2. 手術前日の入院

肺葉切除における当院の特徴

  1. ロボット手術「da Vinci」を用いた低侵襲手術
  2. 硬膜外麻酔をしません。(肋間神経ブロック、局所麻酔で対処)
  3. 尿道カテーテルをいれません。
  4. 動脈カテーテルをいれません。
  5. 術後1時間30分で心電図等のモニターを外し、点滴を終了し、歩行開始、飲食開始します。
  6. 胸腔ドレーンは、55.5%が手術当日、93.8%が手術翌日までに抜去しています。
  7. 約80%が手術翌日に退院
  8. 退院後は自宅でシャワー浴OK、飲酒もOKとしています。