ドクターコラム

乳がん検診について ~検診の方法と自己チェック~

予防医学 婦人科 医長 橋本 栄

掲載日:2023年6月13日

わが国において乳がん患者さんは増加しています

女性では、部位別にみて罹患者数が最も多いのが乳がんです。国立がん研究センターの統計では、2019年には約9万7千人が乳がんと診断され、2020年には約1万5千人が亡くなっています。

たいていのがんは年齢が上がるほど罹患しやすくなりますが、乳がんの場合は40代後半~60代前半にピークがあること、内臓のがんと違って自分自身で乳房を触って発見できる可能性があること、遺伝が関与していて複数の乳がん患者がいる家系がある、などの特徴があります。

症状は乳房にできるしこりですが、痛みはないことが多いです。小さいうちは触ってもわかりませんが、進行すると自分で触ってもわかるようになり、さらに進行すると乳頭から血のような分泌物が出たり、乳頭が陥没したり皮膚の表面にへこみやひきつれなどが出たりすることがあります。

乳がん検診の方法

(1)視触診

乳房を見たり触ったりして腫瘤(しこり)や乳頭からの異常分泌物などがないかどうか調べる診察方法です。ただし、しこりはある程度大きくならないと発見できません。厚生労働省の指針改定により現在は必須ではなくなっています。

(2)画像検査

検診で行われる画像検査ではマンモグラフィ検査超音波検査があります。この2つの検査では図1のように、乳房の見え方が全く異なります。

図1 マンモグラフィ検査と超音波検査の画像図1 マンモグラフィ検査と超音波検査の画像(※当院提供)

a マンモグラフィ検査

エックス線を用いて乳房を撮影する検査です。乳房を引き延ばして圧迫して撮影するために多少の痛みがあり、わずかですが被曝を伴います。

長所としては乳房全体を見ることができて左右の比較も容易であり、石灰化という重要な病変の検出に優れています。短所としては乳腺の濃度の影響を受けやすく高濃度乳房の方では病変が見えにくいことがあります。高濃度乳房については後ほどご説明します。

豊胸術を受けた方、ペースメーカーを装着している方、水頭症のシャント術を受けた方などはこの検査は受けられません。

b 乳腺超音波検査

超音波断層法で乳房をスキャンする検査です。痛みや被曝は伴いません。

長所としては小さな腫瘤を検出すること、乳腺と乳腺でないものを判別することに優れており、乳腺の濃度による影響をあまり受けないので、20~30代の若い方などで乳腺が濃い場合には超音波検査が適しています。

短所は石灰化の検出がマンモグラフィより劣ること、乳房全体を一度に見ることはできず、左右の比較も困難なことです。

上記のように、それぞれに長所・短所があるので一概にどちらの検査が優れているとは言えません。

高濃度乳房について

マンモグラフィ検査では、図のように乳腺の濃さを4段階に分類します。当院ではマンモグラフィ検査を受けた方には、検査結果とは別に図2のような書式で乳腺の濃度をお伝えしています。

図2 乳腺の濃さ ~マンモグラフィを受診されたあなたの乳腺タイプ~図2 乳腺の濃さ ~マンモグラフィを受診されたあなたの乳腺タイプ~
(※新百合ヶ丘総合病院 予防医学書式より)

たいへん大雑把に言って、乳房の中にあるものは乳腺脂肪です。白く写る部分が乳腺で黒く写る部分が脂肪です。

若い年代では乳腺が発達していて脂肪の割合は少ないですが、年齢とともに乳腺は委縮して脂肪との割合が逆転していき、高濃度→不均一高濃度→乳腺散在→脂肪性の順に変化していきます。

ただし、乳腺の委縮のスピードはとても個人差が大きく、年齢が高くてもかなり高濃度の方もいたりするので、これは実際に撮影してみないとわかりません。

マンモグラフィにおいては乳がんなどの病変も白く写るので、高濃度、不均一高濃度の方は濃い乳腺のために病変を発見しにくいことがあります。雪野原で白いウサギを探すようなものです。このような方は検診にて超音波検査も併用して受けることをお勧めします。

乳腺が濃いこと自体は異常ではありませんので、この理由のみで乳腺外科を受診する必要はありません。

自分でも触ってみましょう

乳がんが増えてくる40歳以上の方には特に、自分でも乳がんのチェックをする習慣をつけることをお勧めします。

回数は月に1回です。多すぎると変化に気づきにくくなります。閉経前の方は月経終了直後の乳房が張っていない時期におこなうことを勧めます。

姿勢は起きてでも仰向けに寝てでも、どちらでもよいです。起きた姿勢で触るときはお風呂で石鹸で手をすべすべにして触ると効果的です。片手を挙げて脇を広げ、反対側の手で乳房全体をまんべんなくなで回します。つかむように触ると乳腺をつかんでしまい、つかんだ場所が全部しこりのように感じてしまいますので、なで回してください。

次に、両方の乳頭をしぼるようにつまんで、血液や膿のような分泌物が出ないかどうか見ます。血液は赤いとは限りません。古くなれば褐色や黒っぽくもなります。

最後に、腕の高さを変えながら鏡で乳房を見て、最近の変化として乳頭が陥没してきていないか、表面にへこみやひきつれなどができていないかどうかを観察します。

乳房の大きさや形、乳腺の分布はだいたい左右対称的ですので、見て触って、左右が同じであれば基本的に問題ありません。

また、変化が出てきたとき、たとえば今まで乳腺だと思っていた部分が大きくなってきたなどの場合は異常を疑います。まずは自分の乳房の見た目や感触を覚えないと変化に気づくことができません。

  • (1)まずは見た目と感触を覚える
  • (2)左右対称かどうか
  • (3)変化がないかどうか
  • (4)分泌物は赤だけでなく褐色や黒でも血液を疑う

こんなときは乳腺外科を受診してください

  • (1)左右対称的でないしこりを触れる
  • (2)最近の変化として、乳頭が陥没してきた、皮膚にへこみやひきつれがでてきた
  • (3)乳頭から血液や膿のような分泌物が出る

乳がん検診を受けましょう

現在のわが国の指針では、自治体が行うがん検診(対策型検診といいます)では、40歳以上の女性について2年に1回、マンモグラフィ検査による乳がん検診がおこなわれています。当院は2023年4月現在、川崎市および町田市の乳がん検診の指定病院となっています。

ただし、自費もしくは職場の健康保険組合などを通じて受ける検診(任意型検診といいます)では超音波検査による検診も可能です。
検診の間隔は1~2年です。

実際には、40歳以上の方には、マンモグラフィ検査と超音波検査をどちらか一方に偏らないようにして、毎年検診を受けていくようにとお勧めしています。場合にもよりますが、2つの検査を交互に受けていくというのも一つの方法です。

ただし、遺伝が疑われるような家系の方には毎年両方の検査を受けることをお勧めしています。40歳未満の方では高濃度乳房の可能性がありますので、基本的にはマンモグラフィ検査よりは超音波検査をお勧めしています。

おわりに

乳がんは自分で発見できる可能性があり、また早期のうちに発見、治療されれば生存率の高いがんでもあります。定期的な乳がん検診と月1回の自己チェックで早期発見を心がけてください。