ドクターコラム

新型コロナウイルス感染症と心房細動の関連について

循環器内科 統括部長 畔上 幸司

2022/11/29掲載

  • 提供: 国立アレルギー感染症研究所提供: 米国立アレルギー感染症研究所
  • 2019年12月に中国の武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19※①)ですが、またたく間に世界中に広がり、翌2020年3月にはWHOによりパンデミックが宣言されました。2022年11月時点で感染者数は6億3500万人、死亡者数は660万人にのぼり、1919年のスペインかぜを超える史上最大級の流行といえます。

日本においても、感染者数は2300万人、死亡者数は4万7700人にのぼり、人々の生活様式や社会経済にも大きな影響をおよぼしました。

当初より心血管疾患(※②)がCOVID-19の重症化の要因となることが注目されており、最近の集計によると、心血管疾患のある患者ではCOVID-19の重症化が3.1倍に増加すると報告されています(Heart.2021 Mar;107(5):373-380. Dec:)。また、COVID-19を発症した患者の主要な死亡原因の一つが血管疾合併症であることも知られていますし、COVID-19の合併症として心筋梗塞や心筋炎などの心血管疾患が発症することも知られています。

さて、最近よく話題にのぼる心房細動③についてはどうでしょう。心房細動(※③)とCOVID-19の関係についてどのようなことが知られているのでしょうか。

心房細動とCOVID-19の関係

COVID-19の急性期には様々な不整脈が発生することが報告されています。不整脈は、ストレスや疲労、睡眠不足、自律神経の乱れ、飲酒、カフェイン摂取など種々の誘因により起こりやすくなるとされますが、発熱をともなう感染症も不整脈の誘因の一つであることが知られています。COVID-19に併発する不整脈の中でもっとも注目されるが心房細動(※③)です。

そのメカニズムとして、炎症による心筋障害、肺炎による低酸素血症、感染による代謝需要の亢進(こうしん)、免疫炎症反応の発現、サイトカイン(※④)の放出、交感神経の亢進、電解質異の発生、血管内ボリュームの不均衡などがあげられています(参考:J Cardiovasc Electrophysiol.2020;31:1003-1008. JACC Clin Electriphysiol.2020;6:1193-1204.)。

海外での調査報告

  • 心房細動とCOVID-19の関係
  • 米国クリーブランドクリニックでの調査によりますと、837人のCOVID-19で入院した患者683人(ICU 33.6%, 院内死亡24.6%)のうち45人(5.4%)に心房細動がみとめられ、入院中の死亡率は心房細動のある患者で45人中29人と64%であり心房細動のない患者の死亡率の2.5倍であったとされています。

米国ユタ州での調査では、COVID-19を発症した患者のうち持病として心房細動をもっていた患者3,623人と心房細動をもたなかった患者3,600人を比較しています。主要な評価項目としてMACE(major adverse cardiovascular events; 主要有害心血管イベント)という項目(全死亡、心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中のうちのいずれか)が使用されました。COVID-19の重症度としては、心房細動のある群と心房細動のない群との比較で、入院が34.5対27.6%、ICU収容が12.7対9.1%、酸素吸入を要した患者が31.7対25.0%、人工呼吸器を要した患者が8.9対4.2%でした。MACEの発生は、心房細動をもっていたグループの方が1.4倍多く、心不全による入院が1.38倍、死亡が1.56倍でした。また、COVID-19の発症後に心房細動が新規に発生した患者ではMACEの発生が5.55倍に増加していました。

中東イランからの報告も同様で、COVID-19で入院した患者の8.4%に新規の心房細動が発生し、心房細動を発生した患者では入院中の死亡率は17.7%で心房細動の発生がなかった患者の2.8倍であったとされています。また、心房細動を発生した患者では、高血圧、糖尿病、心メタボリックシンドローム、心不全、慢性腎臓病などの持病をもっていた患者の割合が1.5~2.5倍多かったとされています。

一方、米国の120の病院のデータを統計的に解析した報告では、心房細動そのものがCOVID-19を重症化させるというより、心房細動が発生するような患者群ではCOVID-19が重症化しやすいとみるべきであろうとしています。報告内容を詳しくみてみますと、COVID-19を発症した患者30,999人のうち心房細動を新規に発症した患者は1,517人(5.4%)で、心房細動を発症しなかった患者と比較し死亡率は45.2対11.9%と3.8倍、MACEの発生は23.8対6.5%で3.7倍でした。しかし、表1下段に示しますように、心房細動を新規に発症した患者と発症しなかった患者では患者背景が大きく異なり、新規発症の患者群では高齢者や男性、併存症をもつ人の割合いが多く、COVID-19の重症度も高いことが分かります。調査結果を、年齢、性別、併存症の有無、COVID-19の重症度など補正して統計的に解析しなおすと、死亡率は1.1倍で有意な差はなく、MACEの発生も1.3倍にとどまりました(表1.参照)。

表1 「COVID-19の臨床経過」と「新規AF(心房細動)の有無と患者背景の比較」

COVID-19の臨床経過
新規AF(心房細動)の有無と患者背景の比較

いずれの報告においても、心房細動のある患者にCOVID-19が発症した場合には重症化することが多いということが分かります。また、COVID-19では新規の心房細動の発生も比較的多く、そのような患者もやはり重症化しやすいということが分かります。

COVID-19と抗凝固療法

心房細動では脳梗塞などの血栓塞栓症を予防するために抗凝固療法(※⑤)が行われます。心房細動のあるCOVID-19患者において、抗凝固療法を行っていた患者と行っていなかった患者との間にどうような差が生じたかを調査した報告があります。

米国ロードアイランド州での調査となりますが、3,586人のCOVID-19患者うち心房細動のある患者630人を対象に、抗凝固療法を受けていた患者と受けていなかった患者に分け比較しております。抗凝固療法を受けていた心房細動患者では、院内死亡あるいは血栓塞栓症の起こる確率が63%も少なく、ICU入院となったケースも14.7対29.0%と約半分、人工呼吸器が必要となったケースも6.4対18.6%で約3分の1であることが分かりました。

心房細動の患者は、血管内皮が障害される、臓器のうっ血が起こる、血液が凝固しやすくなる、全身性の目にみえない炎症が発生する、等により血栓塞栓症が起きやすい状態にあることが知られています。また、COVID-19でもこれと似たような病態が発生することが知らており、心房細動をもつ患者に発生したCOVID-19において血栓塞栓症が起き重症化しやすいことの説明とされています。

心房細動をもつ人がCOVID-19を発症した場合、適切な抗凝固療法を受けていない患者さんでは重症化が起きやすく死亡率も高いと言えそうです。用語解説(心房細動※③)で説明しましたように、心房細動があっても症状のない無症候性(病気はあるのに症状や病的な徴候がない状態)の患者さんは意外と多く、京都の伏見区を中心とする京都南部地域で行われた大規模調査の調査によると、心房細動の患者の約半数が無症候とも報告されています(伏見心房細動患者登録研究、2012年開催の第29回日本心電学会学術集会にて報告)。心房細動と診断された患者さんは、抗凝固療法(※⑤)で説明しましたように血栓塞栓症の発生リスク因子があれば抗凝固療法薬が投与されますが、無症候性心房細動の患者さんは医療機関を受診することもなく血栓塞栓症がいつ起きてもおかしくない状況にあるといえます。このような心房細動の患者さんがCOVID-19を発症すると重症化の危険にさらされる可能性が高くなるといえるでしょう(当院循環器内科コラム「心房細動をみつけるための診断法について」を参照)。

最後に

以上、新型コロナウイルス感染症と心房細動の関連について報告されているデータを紹介しました。WHOのテドロス事務局長が2022年9月14日、新型コロナウイルス感染症の拡大に収束の兆しが見えてきたと発言しましたが、まだまだ課題の残るこのコロナ禍、心房細動に限らず持病は日頃からきちんと管理しておくことが重要であると感じます。

【用語解説】

  1. COVID-19

    COVID-19はSARSコロナウイルス2(SARRS-Cov-2)がヒトに感染することによって発症する気道感染症ですが、嗅覚・味覚障害を生じたり、サイトカインストームを引き起こし重症化をまねいたり、特異な後遺症をもたらしたりするなど、多様な病態を引き起こす感染症といえます。
  2. 心血管疾患

    心血管疾患とは、心筋梗塞、脳卒中、心不全、末梢動脈疾患(下肢閉塞性動脈硬化症など)などを含む広い概念で、日本人の死因の中で2番目に多い疾病です。心血管疾患の発症に関係する危険因子としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などが知られています。
  3. 心房細動

    心臓は心房と心室が心房→心室の順に連動しながら一定のリズムで拍動しています。全身に血液を送り出しているのは心室の拍動です(これを心拍といいます)。心房細動は、心房内の電気信号の乱れにより心房が細かく震えた状態となり、これにより心拍が速く乱れた状態となる不整脈です(下図参照)。
    • 心房細動心房細動
    • 正常な心拍正常な心拍
    心房細動は高齢者に多い不整脈で、患者の約半数は75歳以上であることが知られています。自覚症状としては動悸・息切れ・めまいなどが多いとされます。一方、自覚症状のない無症候性とよばれる心房細動も少なくありません。心房細動は心不全や脳梗塞の原因として重要です。心房細動では、心房内に血流の停滞により血栓が発生し、これが心臓から流れとんで脳梗塞をはじめとする血栓塞栓症発症します。
  4. サイトカイン

    サイトカインは、主に免疫系細胞から分泌される低分子のタンパク質で、細胞間の情報伝達を担い多様な免疫応答を引き起こします。免疫反応を活性化し生体の炎症を促すサイトカイン(炎症性サイトカイン)や、逆に過剰な免疫反応を抑制し炎症を抑えるサイトカイン(抗炎症性サイトカイン)があります。これらのバランスが崩れ炎症性サイトカインが大量に分泌されると、過剰な炎症反応を引き起こされ様々な臓器に障害を生じることになります。これをサイトカインストームといいます。
  5. 抗凝固療法

    抗凝固療法とは、抗凝固薬を用いて心臓や血管内での血栓形成を抑制し血栓塞栓症の発生を防ぐ薬物療法です。心房細動による心房内血栓による脳梗塞などの血栓塞栓症を予防するための薬物療法です。心房細動では個々の患者さんに対して血栓塞栓症の発生リスクを評価し投与の是非を検討します。心房細動による血栓塞栓症のリスク因子のうち、心不全、高血圧、年齢(75歳以上)、糖尿病、脳卒中の既往についてチェックし、このうち1つでもリスク因子をもつ患者さんにはDOAC(直接阻害型経口抗凝固薬)とよばれる抗凝固療法薬を投与することが推奨されます。