ドクターコラム

脳震盪(のうしんとう)とは?原因・症状・診断から回復まで

脳神経外科 医長  小此木 信一

掲載日:2026-8-18

脳震盪(mTBI)とはどんな状態?

脳震盪(のうしんとう)とは、一般の方からスポーツ選手まで幅広く起こり得る軽度外傷性脳損傷(mild traumatic brain injury: mTBI)の一種です。
頭部への衝撃や急激な加速・減速によって脳が一時的に機能障害を起こす状態を指します。画像検査で明らかな異常が見られないことが多いにもかかわらず、症状は多彩で、適切な対応を怠ると長期化することもあるため注意が必要です(参考文献1)。

頭を直接打たなくても起きる?主な原因とリスク

脳震盪は「頭を強く打つ」ことだけでなく、頭部に直接衝撃がなくても、体への強い衝撃で頭が揺さぶられるだけで発生します。

  1. スポーツ(サッカーのヘディング、ラグビーやアメフトのタックル、柔道の受け身失敗など)
  2. 交通事故(追突によるむち打ち)
  3. 日常生活におけるぶつかり事故
  • スポーツで頭を打つイメージ
  • 特にスポーツでは、競技特性上、繰り返し衝撃を受けるリスクが高く、脳震盪の発生率も高いことが知られています。

脳震盪でみられる主な症状と観察のポイント

脳震盪の症状は受傷直後だけでなく、数時間から数日経過した後に現れることも少なくありません。画像検査(CTやMRI)で客観的な異常が検出されないケースが多いため、身体症状・認知機能・感情面の変化を詳細に観察することが非常に重要です。

  1. 頭痛
  2. めまい、ふらつき
  3. 吐き気、嘔吐
  4. 視界のぼやけ、光過敏
  5. 倦怠感
  6. 認知・精神症状
  7. ぼんやりする、集中できない
  8. 記憶障害(受傷前後の出来事を覚えていない)
  9. 判断力の低下
  10. 不安感、イライラ
  11. 意識障害
  12. 一時的な意識消失(数秒〜数分)
  13. 反応の鈍さ

特にスポーツ現場においては、「ぼーっとしている」「動きが遅い」「プレーの判断が不自然」といった周囲の観察が重要です。

医療機関で行われる診断と評価ツール

脳震盪はCTやMRIで異常が出ないことが多いため、症状と経過の評価が中心になります。

  1. SCAT6 / Child SCAT6(医療従事者による評価ツール)
  2. CRT6(一般向け認識ツール)
  3. 医療機関でのSCOAT6(72時間以降の評価)

重症化が疑われる場合(意識障害が長い、激しい頭痛、嘔吐が続く、けいれんなど)は、脳出血を除外するため画像検査が必要です。

治療の基本は「休息」:段階的な復帰ステップ

脳震盪の治療の基本は「休息」です。多くの場合は約2週間で症状がほぼ改善します(参考文献5)。

1. 受傷直後(24〜48時間)

  1. 身体・認知活動を控える。
  2. スマホ、ゲーム、読書などの刺激を減らす。
  3. アルコールや激しい運動は禁止。

2. 症状改善後の段階的復帰

スポーツ選手の場合、一般的に以下のステップを踏みます(各ステップは 症状が再燃しないことを確認しながら24時間以上かけて進めるのが原則です)。

日常生活に支障がない状態の場合

軽い有酸素運動→スポーツ特有の動作(軽度)→非接触練習→通常練習→試合復帰

知っておくべき重大な合併症(セカンドインパクト症候群)

繰り返す脳震盪による長期的影響:認知機能低下や精神症状のリスクが指摘されています。特に若年者は回復が遅く、慎重な管理が必要です。

  1. セカンドインパクト症候群:
    回復前に再度頭部外傷を受けると致命的な脳腫脹(のうしゅちょう)を起こすことがある。
  2. 遷延性脳震盪症状(せんえんせいのうしんとうしょうじょう)(Post-Concussion Syndrome :PCS):
    数週間〜数ヶ月にわたり症状が続く。

繰り返す脳震盪が将来の認知機能・認知症リスクに与える影響

脳振盪を繰り返すと、回復までに時間がかかり、症状が長引いたり、重くなったりする可能性があります(参考文献2)。近年では、生涯に3回以上の脳振盪を含む軽度外傷性脳損傷を経験した人において、将来的な認知機能の低下との関連が報告されています。また、軽度外傷性脳損傷は、将来的な認知症の発症リスクの上昇とも関連することが、複数の研究をまとめたメタ解析によって示されています(参考文献3、4)。

まとめ

脳震盪は一見軽症に見えても、脳の機能に一時的な障害を起こす重要な外傷です。適切な休息と段階的な復帰が回復の鍵であり、無理をすると症状の長期化や重篤な合併症につながる可能性があります。スポーツ現場や日常生活で頭部に衝撃を受けた際は、症状の有無にかかわらず慎重に観察し、必要に応じて医療機関を受診することが大切です。

【参考文献】
(1)Patricios JS, et al. Consensus statement on concussion in sport: the 6th International Conference on Concussion in Sport–Amsterdam, October 2022. Br J Sports Med. 2023.
(2) Hallock H, et al. Sport-Related Concussion: A Cognitive Perspective. Neurol Clin Pract. 2023.
(3) Lennon MJ, et al. Lifetime Traumatic Brain Injury and Cognitive Domain Deficits in Late Life: The PROTECT-TBI Cohort Study. J Neurotrauma. 2023.
(4) Gardner RC, et al. Systematic Review, Meta-Analysis, and Population Attributable Risk of Dementia Associated with Traumatic Brain Injury in Civilians and Veterans. J Neurotrauma. 2023.
(5) Henry LC, et al. Examining recovery trajectories after sport-related concussion with a multimodal clinical assessment approach. Neurosurgery. 2016.