はじめに
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当院予防医学センターの袴田医師のコラムにもありましたが、最近では、加熱式たばこの需要が急速に高まりました。その理由は、従来のたばこから加熱式たばこに変えることで禁煙になるもしくは害が減るなどの誤った認識によるものです。そこで、今回のコラムでは禁煙するための補助となるニコチン代替療法について触れてみたいと思います。
喫煙すること自体が病気です
喫煙の害というと、まず一番に肺癌と考える方が多いと思います。しかし、肺がん以外にも口腔癌、喉頭癌、食道癌、胃癌など、多くの癌のリスクを高めています。
また、癌以外にも循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、精神疾患、産婦人科疾患、代謝疾患など身体のあらゆる部位の疾患に影響しています。喫煙により発症のリスクが増大すると考えられる疾患を喫煙関連疾患と呼んでいます。
さまざまな疾患の原因となるたばこ
非喫煙者と喫煙者を比較した場合の罹患リスクと死亡率
癌 | 喉頭癌:33倍,肺癌:5倍,食道癌:2倍 | ![]() 平山 雄 病態 病態生理7(9)、695-705,11988 |
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呼吸器疾患 | 肺気腫,慢性気管支炎,喘息 | |
循嫌器疾患 | 狭心症,心筋梗塞,高血圧症,動脈硬化,末梢楯環不全 | |
消化器疾患 | 胃・十二指腸潰瘍,逆流性食道炎 | |
精神疾患 | ニコチン依存症 | |
産婚人科疾患 | 早産,流産,周産期死亡,先天奇形 | |
代謝疾患 | 糖尿病,骨粗鬆症 | |
神経疾患 | 脳梗塞,脳萎縮,パーキンソン病,聴力障害 | |
歯料疾患 | 歯周炎,ロ内炎,口臭 |
医療経済効果からみた喫煙

上の図は、たばこが与える経済的損失についての試算結果になります。
たばこによる収益は毎年ほぼ2兆円と言われている一方で、喫煙による医療経済的損失額は、4兆円から7兆円と言われています。少し古いデータでは、医療費3兆2,000億円、喪失国民所得(本来健康に働けて日本経済に貢献するはずの分の機会損失)2兆円、休業損失2,000億円、消防・清掃費用2,000億円の合計5兆6,000億円に達したというデータも報告されています。タバコ産業に関連する税を含めた収益を差し引いても、損失額が大きいことが分かります。
それでもなかなか止められない・・・・
喫煙により病気に罹るリスクは分かっていてもなかなか禁煙出来ない方が多いです。禁煙にチャレンジした多くの方が経験する「イライラ感」、「落ち着かない」といった禁断症状によりまた喫煙してしまう、いわゆる「ニコチン依存」による失敗例が多いのが現状です。
そこで、ニコチンだけを体内に取りこませ補充する「ニコチン代替療法」が有効とされ、現在では、保険診療で行うことが出来ます。医療用医薬品をはじめとして、ドラックストアなどでも購入が可能な一般用医薬品などがあります。たばこよりも有害作用が少ない点はメリットですが、もちろん副作用もあるので注意が必要になります。
ニコチン代替療法剤について
ニコチンのパッチ製品 | ニコチネル®TTS®10 | ![]() |
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ニコチネル®TTS®20 | ||
ニコチネル®TTS®30 | ||
・治療期間:8週間 ・処方箋医薬品(医療機関の受診が必要) ※ニコレット®パッチ、シガノン®CQは指定第1類医薬品としてドラックストア等で購入可能 |
医療機関に受診し処方箋で交付されるニコチンパッチ剤になります。パッチ剤には、ニコチネル®TTS®10、ニコチネル®TTS®20、ニコチネル®TTS®30と3種類あり、使用開始後の喫煙要求の程度によって減量します。最初の4週間はニコチン含有量が最も多いニコチネル®TTS®30を皮膚に貼付し、次の2週間はニコチネル®TTS®20を貼付し、最後の2週間はニコチン含有量が一番少ないニコチネル®TTS®10を貼付する方法になります。
このパッチ剤を使用中は必ず、他のニコチン製剤(喫煙も含む)を使用しないことが必要です。
利点 | 欠点 |
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ニコチンが確実に補給される | かゆみやかぶれなど皮膚への副作用 |
1日1回貼るだけで使用方法が簡便 | 不眠や悪夢を見ることがある |
使用していることが他人に分からない | 頭痛がひどくなる |
経口禁煙補助薬:チャンピックス®錠
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当院予防医学センターの袴田医師のコラムにもありましたが、最近では、加熱式たばこの需要が急速に高まりました。その理由は、従来のたばこから加熱式たばこに変えることで禁煙になるもしくは害が減るなどの誤った認識によるものです。そこで、今回のコラムでは禁煙するための補助となるニコチン代替療法について触れてみたいと思います。
ニコチンガム:ニコレット®(各種味あり)
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治療期間:6ヶ月
指定第2類医薬品(ドラックストア等で購入可能)ニコレット®は、ガムタイプの製品になります。ニコレット®に含まれるニコチンが徐々に口腔粘膜から吸収されて、ニコチンの離脱症状を軽減します。効果が出るまでの時間がニコチンパッチに比べて短いこと、使用する個数を調節しニコチン吸収量の調整が図り易いのが特徴です。
様々なフレーバーの種類があるので、自身の嗜好にあったニコチンガムを選択できやすいです。
利点 | 欠点 |
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たばこを吸いたくなったらいつでも使用できる | 気持ち悪くなったり、喉への刺激を感じる場合がある |
ニコチン補充と口寂しさを紛らわせることが同時にできる | 効果に乏しいことがある |
医療機関に受診せずにドラックストアなどで購入が可能 | 使用中は炭酸飲料やコーヒー等を飲むと吸収が悪くなる |
上記以外にもニコチンを補充するガムタイプやパッチ剤が販売され、一般用医薬品としてドラックストア等で購入が可能となっています。ただし、ニコチンを補充するタイプの製剤はニコチン自体に心臓や脳の血管へ負担となることがあるので、血圧が高い方、心臓や脳に病気を持っている方への使用は注意が必要です。また、チャンピックス®錠の場合は眠気や吐き気などの副作用がまれに起こることがあり、注意が必要です。
最後に
平山 雄:最新医学、36:798,1981より
様々な病気に対するリスク因子で、たばこをやめることは、最も確実に重篤な病気を減らすことができる方法です。例えば、上の図は、肺がんや虚血性心疾患の死亡率が禁煙を長く維持できることで喫煙しない人と同じ程度までリスクを減らすことができることが示されています。
ニコチン代替療法を行うことで、たばこや加熱式たばこを吸わない社会習慣の定着を目標とする一助となれば幸いです。