主な治療法|心臓血管外科

右開胸小切開下心臓手術

当科では手術の低侵襲化、特に右開胸小切開下心臓手術を 積極的に推進しています。

  • 心臓手術をご提案された方であれば、低侵襲心臓手術とか、MICSとか、お聞きになられた方も多いと思います。MICSとは、Minimally Invasive Cardiac Surgeryの略で、一般的には、5~8cm程度の皮膚切開で右開胸(あるいは左開胸)を行い、片方の肺をしぼめて心臓にアプローチする方法です。

ここでいう開胸とは、肋骨と肋骨の間を切開するという意味になります。通常、心臓手術は古典的にも現代でも、胸骨正中切開と呼ばれる胸の真ん中を縦切りにして行うのがスタンダードです。短い小皮膚切開の開胸で、前胸部の真ん中の骨を切らないMICS法は、女性であればやはり美容的見地から魅力的な方法であるはずです。しかしながらMICSの最大の魅力は、感染や出血が少ない傾向にあることと、術後の離床(術後にベットから立ち上がって歩けるようになること)が早く、退院までの期間が短い傾向にあることだと考えています。ですから見た目を気にされる若い方だけでなく、ご高齢の方、足が不自由な方などで術後のリハビリに不安を感じる患者さんにも有効です。MICSで施行できる疾患と、できない疾患とがあり(もう少し詳しく述べれば、MICSで行っても良好な予後が見込める病態と、そうでない病態とがあり)、患者さんの病状にあわせて手術術式をご提案しています。当科でのMICS適応範囲は、今のところ僧帽弁手術(大動脈弁手術を併行しない)、大動脈弁置換手術(僧帽弁手術を併行しない)、三尖弁手術、心臓腫瘍の一部、心房中隔欠損症手術です。

一方、MICSで行えば全てが低侵襲!というわけではありません。適応を誤れば、結果的に過大侵襲に陥る事例も存在しますから、われわれも適応決定には当然慎重になっています。適応範囲を正しく限定し、治療選択肢のひとつとして患者さんに誠意を持って提示するべきで、当科ではあらかじめ十分に手術の説明をさせていただきます。

冠動脈バイパス手術

冠動脈バイパス手術は 心拍動下冠動脈バイパス術 (OPCAB)を標準術式としています。

心臓は全身の臓器に血液を送るためのいわばポンプとして機能しますが、その心臓自身も働き続けるためには、酸素や栄養を必要とします。その心臓に血液を送るための血管である冠動脈に狭窄を来たして心筋が虚血に至り、胸痛などの症状が出る疾患が狭心症です。狭くなった冠動脈に、自分の動脈や静脈を使用して迂回路を作り、狭窄部位よりも末梢の血流を増やすことで狭心症の徴候を改善させるのが冠動脈バイパス手術になります。昨今のデバイスの進化に伴い、多くの狭心症は循環器内科が行うカテーテルによって治療を行うことができます。当院でも循環器内科にて数多くのカテーテル治療を行っております。しかし、冠動脈病変の状況によっては、冠動脈バイパス手術の方が長期予後がより良好(より長生きできる可能性が高くなる)と考えられる例があります。それが下記の3つです。

  1. 3枝病変:主要冠動脈3本に重症狭窄病変を認める場合。
  2. 左冠動脈主幹部狭窄:大動脈から左冠動脈が分岐してすぐの部位に狭窄がある場合。
  3. 糖尿病症例:インスリン依存状態にあるような重度の糖尿病を合併している場合。またその合併症である糖尿病性腎症が併存する場合。

以上のような例では、循環器科医師と心臓外科医師により治療選択肢として冠動脈バイパス術がご提案されます。

動脈バイパス手術には、人工心肺を使用して行う方法の他に、人工心肺を使用せず、心臓が動いたままの状態で行う心拍動下冠動脈バイパス術( OPCAB )という方法があります。人工心肺を使用すると、心臓の拍動を一旦止めることができ、血管吻合が容易になるというメリットがあるのですが、一度止めた心臓の機能が十分に回復するまでに時間を要することや、それ以上に血液が人工心肺の回路に触れることで全身性の炎症や凝固能異常などが惹起されるといったデメリットもあります。当科では可能なかぎり、OPCABをプランいたします。

大動脈瘤治療について

大動脈は、心臓から拍出された血液を全身に送る水道管のような役割をしています。その水道管に瘤(コブ)ができるのが大動脈瘤です。ほとんどの例では、大きくなっても破裂するまで症状がありません。そのため、別の目的でCT検査を受けられた時に、偶然発見されることも多く見受けられます。

大動脈瘤がいったん破裂すると、体内で大量に失血して多くの場合は頓死してしまいます。つまり、大動脈瘤は体の中にできた時限爆弾のような病気と言えます。この爆弾が破裂する可能性が高いかどうかは、瘤の大きさと形により判断します。胸の大動脈瘤では55-60mm、お腹の大動脈瘤で45-50mmの大きさになると、破裂する可能性が高くなり、積極的に治療の介入が必要です。また、形のいびつな突出するような瘤も治療の対象となります。

治療ですが、瘤(コブ)になった部分を切除し、人工の血管に置き換える(開胸・開腹下)人工血管置換術が、以前から行われているスタンダードな治療法です。前述のとおり術前には、瘤そのものは(破裂するまで)健康上の問題はありません。しかし術後には、手術によるダメージで一時的に体力が落ちます。また瘤の場所によっては、大きな皮膚切開創が余儀なくされるのも欠点です。ご高齢の方や、別の疾患で体力の落ちている方の場合、このような手術を乗り切るのが困難な場合もあります。

それに対し、2006年に日本で企業性製品が認証され、大動脈瘤治療に革命を起こしたのが大動脈ステントグラフトです。この治療では、鼠径部(太ももの付け根)に約3cmの切開を加えるのみで、大きな切開創は必要ありません。太ももの動脈からカテーテル(細い管)を挿入して大動脈瘤の治療を行います。この治療は、体内の爆弾を摘出するのではなく、大動脈瘤内にステントグラフト(骨格付き人工血管)を挿入することにより、爆弾を不発弾に変えてしまうイメージの治療です。小さな傷で、しかも短時間で手術が終わるため、患者さんへのダメージが少なく、ご高齢の方や、別の疾患で体力の落ちた方にも治療が可能となりました。しかし、不発弾となってはいるものの体内に爆弾が残るため、定期的なCT検査による経過観察が必要で、場合によっては追加の治療が必要となることもあります。

当院では血管外科チームとの連携により、大動脈瘤に対して上記両方の治療が可能です。個々の患者さんの大動脈瘤の形態や全身状態、既往疾患を十分考慮して、治療方法を患者さんと一緒に選択します。基本的には、比較的若くて体力のある方には、根治性の高い人工血管置換術を、ご高齢で体力的に難しい方には、よりお身体にやさしいステントグラフト内挿術をお勧めしています。