2021年3月掲載 薬剤科コラム

心不全治療について

薬剤科 石井 裕也

超高齢化社会を迎える日本では心不全を含む心疾患にかかる患者さんが年々増加傾向にあります。現在、感染の広がる新型コロナウイルスにおいても心臓病などの基礎疾患がある人に感染し、肺炎を起こすと重症化するリスクが高いことが知られおり、日常生活において心不全を予防して再発させない治療が大切です。

この度は心不全における薬物治療とチーム医療での薬剤師の役割についてお話ししたいと思います。

心不全とは

心不全とは全身に血液を送る心臓のポンプ機能が低下することにより息切れやむくみが起こり、生命を縮める病気です。

心不全の症状

心不全では心臓が全身に血液を送り出せないことによる「ポンプ機能低下」と、送り出せない血液が体に溜まる「血液のうっ滞」がみられます。

心不全の症状【参考資料】公益財団法人 日本心臓財団より引用

心不全の原因と経過

心不全にはさまざまな原因があり、心筋に栄養を養っている血管が詰まってしまう心筋梗塞や狭心症、心臓の筋肉自体に異常がある心筋症、心臓の弁に何らかの機能障害がある心臓弁膜症などは心臓のポンプ機能に支障をきたすため心不全の原因となります。また、心臓の病気以外にも、高血圧や糖尿病、腎臓病も心不全につながる病気として考えられています。

特に、高血圧は注意しておきたい病気の一つであり、高血圧の状態が続くことで心臓への負担がどんどん大きくなるため心臓の機能低下や心不全リスクが高まるとされています。

心不全の症状【参考資料】循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業より引用
心不全の症状図1 心不全の進展ステージ

(図1)より時間の経過と共に心不全の悪化と改善を繰り返し、徐々に身体機能が衰えていきます。そのため、早期発見、早期治療により心不全の発症を食い止めることが非常に重要です。また、症状がよくなっても、心不全が完全に治ったわけではありません。再び悪化させないように生活習慣に気をつけて、心不全とうまく付き合っていくことが大切です。

心不全の治療法

心不全の治療には進行予防には欠かせない「薬物療法」と患者さんの状態に合わせて機械を使った治療(ペースメーカー植え込み術、植込み型除細動器など)や手術(心臓カテーテル治療、冠動脈バイパス治療など)を行う「非薬物療法」があります。

この度は薬物療法についてお伝えしたいと思います。

薬物療法について

心不全の薬にはさまざまな種類があり、作用する場所や働きがそれぞれ異なります。数種類の薬を併せて服用する場合もあります。

1)心臓を楽にする薬

血管拡張薬 末梢の血管を拡張します

2)心臓を力づける薬

強心薬 心臓の収縮力を強くします
ジギタリス製剤 心臓の収縮力を高め、早くなり過ぎた心拍を調節します

3)心臓を守る薬

ACE阻害剤※1
ARB製剤※2
血管の抵抗を弱め、心臓の負担を軽くします
アルドステロン拮抗薬
ARNI製剤※3
心筋の障害や心臓の拡大を予防します

4)心臓を休める薬

β(ベータ)遮断薬
HCNチャネル遮断
無理をし過ぎている心臓を休めます

5)むくみを取る薬

利尿薬 体の余分な水分を排出し、むくみを改善します

そのほかにも血栓をできにくくする薬、不整脈を予防する薬、合併症の治療薬などを使うことがあります。
※1 アンジオテンシン変換酵素阻害薬
※2 アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
※3 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬

薬の効果を感じていなくても、服用をやめないで

心不全はかぜなどと違い、治る病気ではありません。調子がよくなっても、お薬をやめると悪くなります。指示された服用回数、服用量を守って忘れずに飲みましょう。自己判断での中止や変更はしないでください。副作用の症状に気づいたら、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

心不全を繰り返さないために

心不全は適切な治療により一旦症状は良くなりますが心不全そのものが完全に治ることはなく、だんだんと進行することを前述でお伝えしました。そのため、急に症状が悪化すること(急性増悪)を予防し、入院の回数を減らすこと、そして、症状が悪化した時(増悪時)のキズを浅くする治療が重要となります。それゆえに薬物療法と並行して運動療法(心臓リハビリテーション)、塩分を控えた栄養管理などを開始して「心不全の疾病管理」に努めていただくことが大切です。また、心不全の患者さんは「自己管理」の方法を学んで、自分自身の努力や家族の協力で再入院を予防するための生活習慣を身につけていただく必要があります。

当院では医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、薬剤師などの専門スタッフで構成される「心不全チーム」による治療により、患者さんやその家族のサポートを行っています。

心不全チームにおける薬剤師の役割

1)服薬アドヒアランス(※1) 維持・改善

薬剤管理、心不全手帳などの患者向けリーフレットを用いた薬剤説明、疾患に応じた薬剤選択・服薬の必要性についてお伝えし、患者さんの疾患や薬に対する理解力の向上及び服薬アドヒアランスの改善に努めています。

2)肝臓・腎機能などの患者状態に応じた薬物投与設計

患者さんの全身状態や服用している薬剤の飲み合わせを考慮し、薬剤投与量や服用回数を調節しています。

3)ポリファーマシー対策

ポリファーマシーとは、薬が多くなるにつれて、薬剤相互作用の増加、飲み間違い、服薬アドヒアランスの低下など、薬が関わる問題につながる状態のことです。入院患者さんの中には複数医療機関・診療科の受診により服用薬が積み重なり、ポリファーマシーとなることがあります。ポリファーマシーにより服薬アドヒアランスの低下や治療効果の低下、副作用の恐れもあります。また、身体的な不利益だけではなく、不要な薬の出費により家計を圧迫しますので不要な薬剤を中止・変更を行っています。

4)患者さんの社会資源に応じた薬剤選択

患者さんの生活背景や薬剤管理状況に応じて用法変更(1日1回製剤や1週間に一回製剤などの切り替えなど)や1包化管理、お薬カレンダーなどを選択して薬剤コンプライアンスに努めています。

多職種からなるチーム医療の介入により最適な薬物治療を実施・継続していくように努めています。

※1 服薬アドヒアランス:患者自身の治療への積極的な参加のことを言います

まとめ

心不全は心疾患の中で死亡数も多く、予後も不良です。心不全を患われた方は残された心機能をうまく使ってできるだけ制限のない日常生活を送っていただくことが目標となります。

  • ●慢性心不全管理で重要な点として

    1. 規則正しい食生活
    2. 塩分の控えめ食事
    3. 適度な運動
    4. 禁煙・節酒
    5. 感染予防
    6. 体重・浮腫の管理
    7. 内服薬を飲み忘れない
  • 日々の生活において動悸・息切れ、体重・浮腫の増加など初期症状が疑われた場合や高血圧、狭心症など心不全の危険因子を抱えている方は早めに医療機関に受診し、適切な治療受けるようにしてください。

最後に

薬剤師もチームの一員として心不全予防管理においてアドバイス、支援を行っています。
日頃の薬剤管理や薬剤のことでお困りのことがありましたら気軽に主治医や薬剤師に相談してください。

【参考文献】
1) 一般社団法人 日本循環器学会/ 日本心不全学会:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
2) 一般社団法人 日本心不全学会:心不全手帳(第2版)・2018
3) 公益財団法人 日本心臓財団
4) 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業