2020年5月掲載 薬剤科コラム

手指消毒と感染対策

薬剤科 池田 貴宏

  • 手指消毒と感染対策
  • 寒さが和らぎ春の兆しが見えてきました。皆様はいかがお過ごしでしょうか。最近は新型コロナウイルス(COVID-19)のニュースが話題となっており感染対策に気を配っているのではないでしょうか。

    今回は手指消毒について紹介します。また、医療現場で使用されている消毒薬や市販で売られている消毒薬も交えてご説明します。 皆さんが感染予防に行っていることは手洗い、うがい、マスクの着用などがあると思います。そのほかにも手指消毒が感染対策にとても重要なことを知っていますか?

感染対策の基本

感染対策の原則

感染成立の3要因への対策(①病原体(感染源)②感染経路 ③宿主)と
病原体を
・持ち込まない ・持ち出さない ・拡げない が基本です。

感染症は①病原体(感染源)②感染経路③宿主の3つの要因が揃うことで感染します。
感染対策においては、こられの要因のうち一つでも取り除くことが重要です。
特に感染経路の遮断は感染拡大防止のためにとても重要な対策となります。

感染対策

医療従事者の手指は病原体を運んでしまう原因の一つ。下記のような状況によって病原体を拡げてしまいます。

  1. 患者の皮膚上の微生物や、患者の身辺に存在する物に落ちた微生物が、医療従事者の手指により伝播する。
  2. これらの微生物は、医療従事者の手指において、少なくとも数分間は生存する。
  3. 次に、医療従事者の行う手洗いや手指消毒が不十分であったり、もしくは、まったく欠落していたりする。あるいは、手指衛生に使用した製品が不適切なものである。
  4. 医療従事者の汚染された手指が、別な患者と直接接触するか、患者が直接接触をするような物と接触する。
医療現場における手指衛生のためのCDCガイドラインより

そのため、医療現場では手指衛生がとても重要となっています。

手指衛生の実態

医療現場での感染対策は手指衛生でありアルコール手指消毒が基本的です。医療従事者の手指衛生の遵守を高めることで院内感染が減少したという報告は多くあります。

手洗いの種類

清潔度から見た手洗いの分類
日常的手洗い 食事の前後やトイレの後など日常的行為において行う、石鹸と流水を用いた手洗い
衛生的手洗い 患者のケアなどの医療行為の前後に行う、消毒薬と流水又は、アルコール擦式製剤を用いた手洗い
手術時手洗い 手術の前に行う消毒薬と流水やアルコール擦式製剤を組み合わせた厳重な手洗い

手洗い方法から見た手洗いの分類
スワブ法
(清拭法)
消毒薬を染み込ませた綿球やガーゼで拭き取る方法。
消毒薬をたっぷりと浸すことが重要であり、皮膚と消毒薬が一定時間以上接触している必要がある。
スクラブ法
(洗浄法)
洗浄剤を配合した手洗い用消毒薬を使ってよく泡立てて擦った後、流水で洗い流す方法。
洗浄と消毒が同時に行える。
ラビング法
(擦式法)
アルコール擦式製剤を手掌にとり、乾燥するまで擦り込んで消毒する方法。

エタノール含有消毒薬による手指消毒のやり方は以下の通りになります。

手洗いの種類
手洗いの種類

また、液体石鹸での手洗いのやり方は以下の通りです。

手洗いの種類

消毒薬の種類

日本での手指の殺菌・消毒に繁用されているものは、以下のようなものであります。 エタノール、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ポピドンヨード。

エタノール

エタノール

手指の消毒には76.9~81.4vol%の濃度で使用。ほとんどの一般細菌に有効。真菌、ウイルス、一部の芽胞菌に有効。

塩化ベンザルコニウム

塩化ベンザルコニウム

手指の消毒には0.05%~0.1%の濃度で使用。ほとんどの一般細菌に有効。真菌に有効。芽胞菌及びウイルスには効果なし。

グルコン酸クロルヘキシジン

グルコン酸クロルヘキシジン

手指の消毒には0.02%の濃度で使用。ほとんどの一般細菌に有効。真菌に有効。芽胞菌及びウイルスには効果不十分。

ポピドンヨード

手指消毒と感染対策
手指消毒と感染対策

液剤:原液を使用
スクラブ剤:そのまま手に採り、水で泡立て水洗いする
ラビング剤:手に擦り込みながら乾かす
※ヨウ素過敏症の方は使用しない
ほとんどの一般細菌に有効。酵母様の真菌に有効。一部の芽胞金及びウイルスには効果あり

一般の方が購入できる消毒薬はこのようなものがあります。

エタノール製剤 塩化ベンザルコニウム製剤
エタノール製剤
エタノール製剤
塩化ベンザルコニウム製剤
クロルヘキシジン製剤 ポビドンヨード製剤
クロルヘキシジン製剤 ポビドンヨード製剤

どうして消毒薬が細菌やウイルスに効くのか?

主な機序としては微生物の細胞壁、細胞質膜、細胞質、核酸などに対する化学的な反応(酸化、凝固、重合、吸着、溶解など)に起因すると考えられ、その使用濃度、作用濃度、作用時間により効力は変化します。通常、濃度が高いほど、温度が高いほど、時間が長いほど効力が増大します。また、それぞれの消毒薬には有効な微生物と無効な微生物、つまり抗微生物スペクトルがあり、消毒の対象となる微生物に対する有効性が確認されている消毒薬を選択することが必要です。

消毒薬の種類健栄製薬 微生物の消毒薬抵抗性の強さ、および消毒薬の抗菌スペクトル図より引用

また現在皆さんが感染対策に注意しているおかげでインフルエンザの罹患率が大幅に低下している現状があります。東京都健康安全研究センター調べでは昨年に比べてインフルエンザ患者発生報告は減少しているというデータが出ています。

まとめ

医療現場では常に感染対策に気を配って患者様に医療を提供しています。一般家庭でも感染対策はとても重要です。正しい手指衛生によって感染対策を行うことで健康を保つことができるのです。また、今回は手指衛生について紹介しましたがマスクの着用やうがいも大切な感染対策の一つです。一つ一つの対策が感染症を予防することにつながります。今回のコラムを読んで改めて手指衛生の大切さがわかっていただければ幸いです。

【参考】
医療現場における手指衛生のためのCDCガイドライン
病院感染対策における手指衛生について 健栄製薬
大日本住友製薬 HP
東京感染症情報センター
石丸製薬株式会社 HP
東京都健康安全研究センター
日本薬剤師会 感染症予防対策
花王 ハイジーンソルーション 2002 No1
吉田製薬 消毒薬テキスト 第4版