2020年2月掲載 薬剤科コラム

花粉症の治療法「アレルゲン免疫療法」について

薬剤科 成田 未咲

花粉症の原因

  • 花粉症
  • 春が近づき、花粉症で悩んでいる方が多いのではないでしょうか? アレルギーの原因となってしまうのは、花粉の他に、ハウスダスト(ダニ・ホコリ)や動物の毛、食べ物など様々です。「花粉」がアレルゲン(原因)となって起こるアレルギーの総称が「花粉症」と呼ばれます。

この時期に多いのはスギ・ヒノキ(2~4月)ですが、シラカンバ(4~6月)、イネ(4~11月)、ブタクサ・ヨモギ(8~10月)など年間を通してそれぞれの時期に樹木や草花の花粉が飛散し、原因となります。

花粉症飛散時期

花粉症の症状である、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみなどは、日常生活に辛い影響を与えてしまいます。そのため、病院には点鼻薬、点眼薬、抗ヒスタミン薬を求め多くの患者さまが受診されます。

花粉症のメカニズムは、抗原抗体反応であり、目や鼻に花粉が入ってくると、花粉に対する免疫反応により症状が引き起こされます。

花粉症のメカニズム

花粉症の治療法のひとつに、アレルゲン免疫療法があるのはご存知でしょうか?今回は、アレルゲン免疫療法(減感作療法)についてお話ししたいと思います。

アレルゲン免疫療法とは?

減感作療法とも言われ、病因アレルゲン(花粉症の場合、花粉)を投与していくことにより、アレルゲンに暴露された場合に引き起こされる関連症状を緩和する治療法です。

アレルゲン免疫療法には、皮下免疫療法舌下免疫療法があります。どちらも保険適応で行うことができますが、皮下免疫療法では皮下に注射で投与していき、舌下免疫療法では舌の下(裏側)から投与していく方法です。 少量から徐々に量を増やして繰り返し投与することにより、体をアレルゲンに慣らして、症状を和らげます。そのため、一時的に症状を抑える対症療法ではなく、根本的な体質改善(治癒や長期寛解)が期待される唯一の治療法です。症状の緩和の他、対症療法で使用されるお薬の使用量の低下や、生活の質の改善が期待されます。

また、治療終了後も、長年にわたり効果が持続されたり、将来の喘息発症や新たなアレルギー反応の発症を抑えることも報告されています。 皮下免疫療法は100年余りの歴史があり、従来から行われてきました。舌下免疫療法が可能になってからは、注射による痛みがなく、通院も少なく、自宅で行えることがメリットとなり、アレルゲン免疫療法を行うハードルが下がったのではないかと考えられます。

現在、スギ花粉舌下療法製剤として、2014年10月発売開始となったシダトレン®スギ花粉舌下液(以下、シダトレン®)と2018年6月発売開始となったシダキュア®スギ花粉舌下錠(以下、シダキュア®)が薬価収載されています。 (シダトレン®は、シダキュア®発売に伴い2021年3月31日で販売中止となります。) シダトレン®は、液体製剤、冷蔵庫保管が必要であり、対象年齢が12歳以上でした。それに比べ、シダキュア®は錠剤であり室温保管が可能、小児(5歳以上)から大人まで使用でき、さらに投与スケジュールも簡便になり、治療効果も向上した改良型です。利便性の優れた舌下免疫療法が治療の選択肢のひとつとして選ばれていくと考えられます。

*ダニアレルギー性鼻炎に対しては、ミティキュア®ダニ舌下錠(以下、ミティキュア®)が販売されています。

アレルゲン免疫療法の特徴

  • 治療期間は長期間です。3〜5年とされています。
  • 病因アレルゲンの確定診断が必要です。
    シダキュア®・シダトレン®:スギ花粉
    ミティキュア®:ダニ抗原
  • アナフィラキシー等が発現するリスクがあります。
    アレルゲンを投与することにより、アレルギー反応が起こる可能性があり、まれに重い症状が発現する可能性があります。
  • すべての人に効果があるわけではありません。

アナフィラキシーとは

医薬品などに対する急性の過敏反応により、医薬品投与後多くの場合30分以内で、蕁麻疹などの皮膚症状や、腹痛や嘔吐などの消化器症状、息苦しさなどの呼吸症状、突然のショック症状(蒼白、意識の混濁など)が見られる

シダキュア®スギ花粉舌下錠

それでは、シダキュア®スギ花粉舌下錠についてご紹介します。

シダキュア®スギ花粉舌下錠は、スギ花粉から抽出したエキスから作られています。

投与スケジュールについて

投与スケジュールについて

スギ花粉症であることが確認できたら、最初の1週間は2,000JAU錠を、2週目以降は5,000 JAU錠を1日1回1錠服用します。
*2,000JAU、5,000 JAUはスギ花粉エキスの含量です。
初回は医療機関で服用し、2回目以降は自宅で服用します。

初回の服用について

  • スギ花粉が飛散していない時期に行います。
    飛散している時期は、スギ花粉アレルゲンに対する過敏性が高まっている場合が多くアレルギーが誘発されやすいためです。
  • 医療機関で行い、投与後少なくとも30分間の観察が必要です。 副作用の発現や、正しく舌下に保持できるかを確認するためです。

正しく治療が行われると、治療を開始後初めてのスギ花粉飛散シーズンから効果が期待されます。

服用方法について

シダキュア®スギ花粉舌下錠は舌下錠です。
舌の下(裏側)にお薬を置き、1分間保持した後、飲み込んでください。
舌の下に置くとすぐ唾液で溶けてなくなりますが、唾液はすぐ飲み込まずに、1分間舌の下に保持してください。
その後5分間は、うがいや飲食をしないでください。
吸湿性があるため、服用直前に乾いた指で取り出しましょう。

服用上の注意点

  • アナフィラキシーなど、副作用の発現に注意が必要です。 服用開始初期、服用後少なくとも30分間、スギ花粉飛散期は、特に注意が必要です。そのため、家族のいる場所や、日中の服用が推奨されます。
  • 服用前、及び服用後2時間は、激しい運動、アルコール摂取、入浴などは避けてください。血行が促進され、体内への吸収が増すことにより、副作用の発現が高まります。
  • 服用を中止・再開するときは自己判断せず、必ず医師へ相談してください。

主な副作用について

アレルゲン投与部位に関連した症状がもっとも多くみられます。

  1. ショック
  2. アナフィラキシー
  3. 口の中の不快感・かゆみ・浮腫
  4. 喉の不快感・刺激感
  5. 耳のかゆみ
  6. 唇の腫れ
  7. 頭痛

スギ花粉の回避

治療中も、十分なスギ花粉の回避を行うことが大切です。

まとめ

アレルゲン舌下免疫療法は、長期間の治療、自宅での服用、副作用の発現の可能性から患者さまの正しい理解が大切となります。今回は舌下免疫療法を中心にご紹介しましたが、長期間毎日お薬を継続することや副作用に対しての体調管理は思ったより大変そうだと感じた方もいるかもしれません。皮下免疫療法は、専門医のもと投与を実施する安心感や、増量期を過ぎ維持期になると1ヶ月に1度の通院も可能となります。それぞれメリット・デメリットを理解して治療を選択する必要があります。

毎年、花粉症でお悩みの方へ今後の治療の手助けとなれば幸いです。

【参考】
シダキュア®スギ花粉舌下錠 添付文書(2020年2月時点)
シダキュア®スギ花粉舌下錠 インタビューフォーム(2020年2月時点)
鳥居薬品ホームページ https://www.torii-alg.jp/ (2020年2月時点)
日本アレルギー学会 「スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き(改訂版)」