2019年12月号 薬剤科コラム

薬をたくさん飲んでいませんか?

薬剤科 下平 貴弘

  • 薬をたくさん飲んでいませんか?
  • 最近、ポリファーマシーという言葉をテレビや新聞で見かけるようになりました。ポリファーマシーとは、ポリ(poly:たくさん)、ファーマシー(pharmacy:薬)を組み合わせた造語です。今回はポリファーマシーに関するお話です。

ポリファーマシーとは?

ポリファーマシーとは、ただ単にたくさんの薬を飲んでいることではありません。ポリファーマシーとは、薬が多くなるにつれて、薬物有害事象(※1)の増加、飲み間違い、服薬アドヒアランス(※2)の低下など、薬が関わる問題につながる状態のことです。治療上必要な薬が多数あることもあれば、数が多くなくても数種類以上で有害事象が問題になることもあり、薬の数が問題ではなく、中身が重要になります。

※1.「薬物有害事象」は、薬剤の使用後に発現する有害な症状又は徴候であって薬剤との因果関係の有無を問わない概念です。「副作用」は、薬剤との因果関係が疑われる又は関連が否定できないものとして使用されます。
※2.アドヒアランスは患者自身の治療への積極的な参加のことを言います。

ポリファーマシーによる不利益

先ほども述べましたが、お薬が増えると飲み合わせによる有害事象が出てくる恐れがあります。ある調査では6種類以上になると薬による有害事象が増えるという報告もあります。飲み方が異なるお薬が増えることで、飲み間違いをしやすくなります。服薬アドヒアランスの低下による治療効果の低下や副作用の恐れもあります。身体的な不利益だけではなく、不要な薬の出費は家計を圧迫します。日本の医療費増加にもつながります。

ではなぜ薬が増えてしまうのでしょうか?

1.多病により、複数医療機関・診療科の受診(図 例1)

新たな病状が加わる度に新たな医療機関又は診療科を受診していると、それぞれ2、3剤の処方でも足し算的に服用薬が積み重なり、ポリファーマシーとなることがあります。循環器疾患、糖尿病、慢性腎臓病、自己免疫疾患など重い病気を合併した場合は、適切な治療により多剤併用となることが多いですが、軽い症状で複数の医療機関を受診する際は注意が必要です。

2.処方カスケード(図 例2)

薬物有害事象が起きていても、それは新たな症状だと思い、別の医療機関に受診し、新しい薬をもらってしまう。新たな薬が増えたことによりさらに薬物有害事象が増え、また薬で対処してしまう。このように、薬物有害事象を薬で対処し続けることを処方カスケードと言います。薬を止めれば治る症状が、薬が増えながら悪化していくという悪循環になります。

3.症状がないけど続けている

入院患者様に持参薬の確認に伺うと、一時的な症状で開始しためまいの薬や胃薬やアレルギー薬などを漫然と続けられていることがあります。現在症状がなくても飲み続けていることがあるため、中止になることも多いです。病気がないのに服用する薬は、体にとって不要な物質です。

ポリファーマシーによる不利益 【参考資料】厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」より引用

ポリファーマシーの対策

厚生労働省から「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」、日本老年医学会からは「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015」が発行され医療者側に注意喚起がされています。

患者さん自身が不要なお薬を防ぐ方法はどうすれば良いでしょうか?
かかりつけ医を持ち、かかりつけ医に薬剤処方状況の把握をしてもらうことが有効です。また、かかりつけ薬局を持ち、調剤と薬品情報管理の一元管理をしてもらうことも有効です。多数の医療機関を受診する場合、お薬手帳を持参して受診時に医師に見せることで副作用の早期発見や、効果が重複した薬の処方を防ぐことができます。

一時的な症状で追加になった薬が漫然と続けられることがあります。自分がどうしてこの薬を飲んでいるのか理解していることが重要です。どの薬がどの役割を持っているかわからない場合、まずはご自身の病気の症状や原因を知り、薬がどのような役割をしているのか医師、薬剤師に確認しましょう。

ご自身や、ご家族の中でたくさん薬を飲んでいる方はいませんか?
お薬が多いと感じる方は一度見直しをしてみることをお勧めします。ただし、ご自身の判断で薬を中断することは絶対に避けて下さい。

ポリファーマシー対策のまとめ

かかりつけ医、かかりつけ薬局を持ちましょう
・診察時と薬局ではお薬手帳を見せましょう
・飲み合わせが気になる場合は医師、薬剤師に相談しましょう
ご自身の病気とお薬のことを把握しましょう
ご自身の判断で薬を中断することは絶対に避けて下さい