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NO.142019年3月掲載

不眠症と薬
~不眠症治療のゴールは、
薬に頼らずに十分な睡眠を得ること~

薬剤科 黒滝 竜

まず睡眠とは?

不眠症と薬

睡眠が人間にとって重要なものであるということは、皆様もご存知かと思います。十分な睡眠がとれなかった日は、やけにイライラしたり、仕事が思うように進まないといった経験をしたことがあるのではないでしょうか ?睡眠には、日中の活動で使った脳と体を休養する役割の他に、記憶の整理・定着、ホルモンバランスの調整などの役割があります。

では不眠症とは?

不眠症とは、「夜間の不眠症状が週に2回以上あり、その状態が少なくとも1か月以上持続し、その結果として日中の機能障害を伴うもの」と定義されています。精神的なストレスや身体的な苦痛により一時的に夜間眠れない状態は、生理学的な不眠状態ではありますが、疾患としての「不眠症」とは言いません。

成人の約30%が不眠症状を有しており、約10%は不眠症に罹患しているといわれています。不眠は、眠気、倦怠感、集中力低下、抑うつや不安などの精神症状を引き起こし、その結果として医療費の増加、生産性の低下、交通事故の増加などの様々な人的及び社会経済的損失をもたらすことが報告され、社会問題となっています。

不眠症のタイプ

不眠症のタイプ

一言で不眠といっても、不眠の症状には大きく分けて4つのタイプがあります。
下記の症状が単独ではなく、組み合わさっている場合もあります。

・入眠障害 … 床に入ってから寝つくまでに時間がかかるタイプ
・中途覚醒 … 一旦寝ついても夜中に目が覚めてしまい、その後寝つけなくなるタイプ
・早朝覚醒 … 朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまうタイプ
・熟眠障害 … 朝起きたときにぐっすり眠った感じが得られないタイプ

不眠症の治療

不眠症の治療は、「薬物療法」「非薬物療法」の大きく2つに分けられます。

「薬物療法」では、薬による治療を行います。一方、「非薬物療法」では、薬を用いずに生活習慣の改善(睡眠衛生指導)により不眠症の治療を行います。不眠症の治療では、まず不眠の原因を診断し、薬物療法以外の治療を行います。不眠が他の疾患が原因となっている場合は、まずはその原因となる疾患の治療が優先となります。

糖尿病の治療において、生活習慣の改善が重要であるように、不眠症の治療においても生活習慣の改善がとても重要になります。そして不眠症治療のゴールとは、薬物治療により十分な睡眠を得ることではなく、薬に頼らずとも十分な睡眠が得られるような生活習慣を作り出すことです。しかしながら、その過程にある薬物治療を早期に止めた方がいいという認識は誤りであり、医師が必要と判断した際には、その指示に従うことも重要です。

非薬物治療 ~睡眠習慣の改善~

不眠症のタイプ。
定期的な運動 なるべく定期的に運動しましょう。
適度な有酸素運動をすれば寝つきやすくなり、睡眠が深くなります。
寝室環境 快適な就床環境のもとでは、夜中の目覚めは減ります。
音対策のために絨毯を敷く、ドアをきっちり閉める、遮光カーテンを用いるなどの対策も手助けとなります。
寝室を快適な温度に保ちましょう。暑過ぎたり寒過ぎたりすれば、睡眠の妨げとなります。寝床では本を読んだりせず、寝床は眠るためだけに使いましょう。寝床=眠る場所という意識付けも重要です。
睡眠時間 睡眠時間にこだわりすぎないようにしましょう。
睡眠時間には、個人差があることに加え、年齢を重ねるにつれ睡眠時間は短くなるといわれております、25歳時の平均睡眠時間は7時間に対し、65歳時では6時間程度まで短縮されるといわれております。
重要なのは睡眠時間ではなく、日中に眠気が残らないことです。睡眠時間が短くても日中に眠くなければ問題ありません。
規則正しい食生活 規則正しい食生活をして、空腹のまま寝ないようにしましょう。
空腹で寝ると睡眠は妨げられます。
睡眠前に軽食(特に炭水化物)を取ると睡眠の助けになることがあります。脂っこいものや胃もたれする食べ物を就寝前に取るのは避けましょう。
就寝前の水分 就寝前に水分を取り過ぎないようにしましょう。夜中のトイレ回数が減ります。
脳梗塞や狭心症などの血液循環に問題のある方は主治医の指示に従ってください。
カフェイン 就寝前の4時間前からはカフェインの入ったものは取らないようにしましょう。
カフェインの入った飲料や食べ物(日本茶、コーヒー、紅茶、コーラ、チョコレートなど)を取ると、寝つきにくくなったり、夜中に目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりします。
就寝前の飲酒 眠るための飲酒は逆効果です。
アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減ってしまいます。
就寝前の喫煙 夜は喫煙を避けましょう。ニコチンには神経刺激作用があります。
寝床での考え事 昼間の悩みを寝床に持っていかないようにしましょう。
自分の問題に取り組んだり、翌日の行動について計画したりするのは、翌日にしましょう。心配した状態では、寝つくのが難しくなりますし、寝ても浅い眠りになってしまいます。
起床 毎朝、同じ時刻に起床しましょう。体に一定のリズムが身に付きます。
朝、起きたら太陽の光を浴びましょう。体内時計がリセットされます。体内時計がリセットされると、その約14時間後からメラトニンというホルモンが体内で分泌され、睡眠が促されます。

薬物治療

非薬物治療(睡眠習慣の改善)でも、不眠症状が解消されない場合は薬を用いた治療が行われますが、薬物治療を実施している間も、睡眠習慣の改善は継続しましょう。

また、不眠症治療のゴールは、「薬に頼らずとも十分な睡眠が得られるようになることである」という認識を持ち、睡眠薬の服用量は最小限に抑えること、及び服用量を徐々に減らしていき、最終的には睡眠薬の服用がゼロになるように、医師・薬剤師と相談の上、治療スケジュールを立てましょう。

不眠症治療薬の種類

特徴 代表的薬剤:商品名®
(一般名)
GABA受容体作動薬
・ベンゾジアゼピン系
・非ベンゾジアゼピン系
脳の興奮を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促すことにより、脳の活動を休ませて眠りへと導きます。薬が効き始める時間、薬の効果が続く時間により使い分けられます。 マイスリー® (ゾルピデム)
ルネスタ® (エスゾピクロン)
ハルシオン® (トリアゾラム)
レンドルミン® (ブロチゾラム)
デパス® (エチゾラム)
サイレース® (フルニトラゼパム)
ネルボン® (ニトラゼパム)
メラトニン受容体作動薬 脳内には、メラトニンという体内時計の調節をするホルモンがあります。この薬は、このメラトニンが作用する部分を刺激することにより、体内時計を整え、睡眠を促します。 ロゼレム® (ラメルテオン)
オレキシン受容体拮抗薬 脳内には、オレキシンという覚醒を維持する物質があります。この薬は、脳内でのオレキシンの働きを弱めることにより、睡眠を促します。 ベルソムラ® (スボレキサント)

不眠症治療薬の問題点

不眠症治療薬の問題点としては以下のようなものがあります。

・持ち越し効果
薬の効果が翌朝以降も持続してしまい、午前中の眠気、ふらつきが現れる。
・筋弛緩作用
不眠症治療薬の中には、多かれ少なかれ筋肉を弛緩させる作用があります。
立ち上がる時に力が入らず、転倒してしまい骨折に繋がる危険性があります。特に、ベンゾジアゼピン系薬で多いとされています。
・記憶障害
服用後の記憶があいまいになったり、経験したことを忘れてしまう。作用時間の短い睡眠薬で起こりやすい。
・反跳性不眠
続けて飲んでいた睡眠薬を、突然中止したことにより、不眠症状がかえって強く現れてしまう現象。作用時間の短い睡眠薬ほど起こりやすい。
・依存症
薬を服用していないと落ち着かない、薬が手元にないと不安になってしまう。

睡眠薬服用時のポイント

上記のような睡眠薬の問題点を少なくするために以下のポイントを守りましょう。

睡眠薬服用時のポイント

・処方された服用量を守る。
 ・服用後は、ふらつき・転倒の危険性がある為、床に入る。
 ・アルコールと一緒に飲まない。
→睡眠薬の効果が強く表れてしまう可能性があります。
 ・睡眠薬を継続して服用している場合は、自己判断で中止しない

現在、一般的に処方されている睡眠薬は、昔と比べ依存性やその他副作用の危険性は少なくなっていますが、無くなっている訳ではありません。その為、医師・薬剤師による指示をきちんと守りましょう。また、不眠症治療薬の問題点として挙げたような症状があった場合には、薬の量が多いことなどが考えられるので医師・薬剤師に相談しましょう。

入院中に生じた不眠症状について

自宅にいるときには不眠症状は無かったのに、入院することにより新たに不眠症状が現れてしまう患者様が多くいらっしゃいます。原因としては、慣れない環境によるストレス、疾患の治療に対する不安、普段とは異なる生活リズムなどが考えられます。入院されてくる患者様は、共通して疾患を治すために入院されて来るにも関わらず、入院することにより「不眠」という新たな問題を抱えてしまうことが多々あります。入院中においては、慣れない睡眠環境、消灯時間や食事の時間などの制約により、自分に合った睡眠習慣の構築が難しくなってしまっているのが現状です。その為、入院中は睡眠薬に頼らざるを得ない状況があります。退院時に、この「不眠」という余計な問題を持ち帰らなくて済むように、私ども薬剤師が尽力させていただきますが、入院中は不眠の原因となる環境要因の改善が難しいです。ですので退院後、ご自宅に帰られた際には、睡眠薬を飲まなくて済むように、先ほどお話しさせていただいた睡眠習慣の改善を心掛けていただければ幸いです。



参考元
1) 日本睡眠学会ホームページ 睡眠に関する基礎知識
 参照日:2019/1/25
2) 日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ44 不眠症」
第 1版 2014年 5月発行

3) 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン
2013年改訂版