2020年2月掲載

手術前のお口の手入れ

手術看護認定看護師 佐藤 淳子

  • 手術前のお口の手入れ
  • 手術とお口、と言ってもあまり関係はなさそうに感じますが、「口腔内環境を整備すること」は手術にとても関わりがあると言われています。入院・麻酔・手術・回復といった、患者さんのおかれる術前後の期間を含めた一連の期間のことを周術期と言います。その期間に起こりうるお口のトラブルとして歯の損傷とお口の環境が原因の術後感染症があります。

歯の損傷は何故起こる?

手術を行う時には全身麻酔が選択されることがあります。全身麻酔とは、「眠った状態で全身のどこに痛み刺激を与えても、痛みを感じなくする方法」です。全身の筋肉を脱力させる薬を使うので自身では呼吸ができなくなります。呼吸を助けるために「気管内挿管」が行われるのです。このチューブを操作する際に、歯が欠ける・折れる・抜けるといった歯の損傷が起こることがあります。もともと歯周病で歯根周囲の骨が下がりグラグラと揺れている歯や、前後の歯が抜けてしまって一本だけ孤立して生えているような場合に多いと言われています。歯の損傷は術後の生活にも影響が生じてしまいます。また抜けた歯が気管へ転がり落ちてしまうと別の処置が必要となることがあり、とても危険です。

術後の感染症ってどんなものがあるの?

お口の中には700種類以上の微生物が住んでいます。普段は悪さをする菌は少ないですが、食生活の変化、加齢、糖尿病などの全身疾患により病気を引きおこす菌が増えてしまうとされています。気管内挿管の際には、チューブがお口の中を通ります。チューブを介して悪さをする菌を肺へ運んでしまうことがあります。それで起こるのが肺炎です。細菌の混じった唾液が肺の方へ入ってしまって起こる肺炎もあり、口腔内環境に影響される肺炎は見逃せません。また、歯の磨き残しがあると歯周病や虫歯となってしまうことがあります。歯周病で歯茎が腫れていたり、虫歯で歯の根元がむき出しになっていると、ブラッシング時に歯茎が傷ついた時に血管内にお口の中の菌が入り菌血症になると言われています。それらの菌が心臓の中の血のよどみや人工弁につくと感染性心内膜炎を引き起こします。人工関節置換術を受けた患者さんでは血管のない人工関節に菌がついてしまい人工関節炎になることもあります。同じように抜歯時にはお口の中の菌が血管から血液中に入ることがあるため、整形外科領域では術後合併症を予防する目的で、「手術の前に悪い動揺歯や歯周病治療を行っておくこと」としている施設もあります。ひどい歯周病や虫歯があったら、術後の人工関節の感染を防ぐために手術を延期せざるを得ない場合もあるので注意が必要です。

手術を受けることが決まったら

  • 手術前のお口の手入れ
  • どのような手術であっても、心配は尽きないと思います。ご不安なことは遠慮なさらずに、かかりつけの医師や看護師などにお声かけください。手術は無事に終わったけれども肺炎を起こしてしまったり、歯が抜けたから入れ歯が合わなくなってご飯が食べづらいなどといったトラブルにならないようにしましょう。安全に手術を受け日常生活に戻るために、手術を受ける際にはお口の中をいま一度ご確認いただきたいと思います。歯がグラグラしている方、歯茎が下がって血うみが出る方、乾燥・口臭がある方、化学療法・放射線療法を予定されている方、人工弁置換術・人工関節置換術を受ける予定の方はかなりリスクが高いと言えます。ご自分では判断できないという場合にはぜひ歯科受診をお願いします。



【参考文献】
1.手術室新人ナース育成マニュアル、オペナーシング2007年春季増刊 P125
2.神田修治.「周術期の合併症を防ぐためのポイント」
INFECTION CONTROL 2019 vol.28 no.4 P80~83
3.周術期管理チームテキスト、日本麻酔科学会・周術期管理チーム委員会編 第3版 P193~201
4.岸本裕充、手術後合併症を低減するための周術期オーラルマネジメント