2020年7月号 ドクターコラム

最新の皮膚疾患事情あれこれ

皮膚疾患研究所 所長 飯島 正文

掻かずにはいられない症候群/掻くのがやめられない症候群

  • 掻かずにはいられない症候群
  • 止痒剤は抗ヒスタミン薬(抗ヒ薬)です。抗ヒ薬はじんましんなどの痒みには有効ですが、痒み神経の関与する痒み等には殆ど無効です。掻き過ぎ/掻き壊しは皮膚を損傷して炎症を重症化させ、抗ヒ薬が無効な痒みをさらに悪化させ、またまた掻き壊す、掻くのがやめられないというitch-scratch cycle(掻痒/掻破の悪循環)を惹き起こします。

全身に無数の掻破痕・結節性痒疹(掻いてできた硬いしこり)を主訴に来院される患者さんは少なくありません。何処の医者に行っても治らない、そもそも医者はろくに話も聞かずに薬だけ処方する、掻くのが良くないと頭では分かってはいるが掻くのがやめられない、と訴えます。治療には抗ヒ薬の効かない痒みの病態(itch-scratch cycle)を良く説明し、心理的ストレスが嗜癖的掻破行動の背景にあることを理解してもらいます。掻いても傷にならない爪切り、クーリングによる痒み抑制などの生活指導をします。診察には時間がかかりますが、患者さんとの信頼関係の確立こそが本症候群治療の決め手と考えます。

重症成人アトピー性皮膚炎の新しい治療戦略

アトピー性皮膚炎は先天的・遺伝的な乾燥肌/過敏肌(=アトピー皮膚)に生じた湿疹・皮膚炎で、乳幼児、小児、成人と各年齢層に特徴的な皮膚症状が認められます。皮膚炎に対しては主としてステロイド軟膏を用いた外用治療を行い、皮膚炎軽快後は乾燥したアトピー皮膚に対する保湿剤を用いたスキンケアを最終目標とします。しかし実際の臨床では患者さんが掻痒/掻破の悪循環に陥って治療に難渋させられることが多く、最近では治療抵抗性の重症成人アトピー性皮膚炎の患者さんが数多く来院されます。

免疫抑制薬ネオーラルはインターロイキン2(IL-2)を中心とするアトピー性皮膚炎の免疫応答と神経由来の痒みを抑制して重症アトピー性皮膚炎に高い治療効果を発揮します。私は既存治療に抵抗する成人(16歳以上)の重症アトピー性皮膚炎に対してネオーラル内服療法を積極的に用いており、投与開始後比較的速やかに掻痒の改善が期待できます。内服期間は8~12週間、高血圧・腎機能障害に配慮し、休薬期間を挟んだ間歇投与を原則とします。このようにネオーラル内服療法は成人アトピー性皮膚炎に対する優れた治療法ですが、しかしネオーラル治療にも抵抗性の最重症型の患者さんもなお散見されます。

2018年成人重症アトピー性皮膚炎に対する画期的な新薬、デュピクセントが保険収載され、卓越した有効性を実感しています。本剤はアトピー性皮膚炎の根幹を形成するインターロイキン4/13(IL-4/IL-13)阻害薬で2週間毎に皮下注射します。治療開始後間もなくから強い痒みが緩和されて患者さんの大きな福音となりますが、相当に高額な薬剤費が問題です。重篤な副作用は無く、費用対効果を勘案した有用性は大きいものと考えます。今後重症成人アトピー性皮膚炎には従来のネオーラル内服療法に加え、デュピクセント皮下注療法を中心に進めてまいります。