2017年9月号

ヒアリ

救急科/中野 貴明

最近メディアを賑わせているヒアリは、今のところは海外からのコンテナなどに紛れて上陸するだけで、国内での繁殖は確認されていません。しかし、外来生物の日本国内への分布制御は難しく、1995年に大阪で発見された有毒クモのセアカゴケグモは、現在では岩手から沖縄までの地域に生息が確認されています。現在は港湾職員の知識として必須のヒアリですが、近い将来みなさんの身近に存在する生き物になっている可能性は否めません。よって、今のうちに、ヒアリがどのような生き物であり、その危険性を正しく認識する必要があると考えます。

1. ヒアリの危険性は「毒」そのものではない

ヒアリは南米原産でハチ目アリ科に属します。有毒かどうかと言われると、毒の定義上、難しい質問です。16世紀に活躍したスイス人医師であるパラケルススが、「すべての物質は有害である。有害でない物質はなく、用量に依って毒であるか薬であるかが決まる」と述べているように全ての物質は容量を間違えれば毒になります。

ヒアリに関しては少なくとも毒単独の影響で人間を殺すことはできません。では、なぜメディアでこれほど騒がれているのでしょうか。これは毒の陰に隠された、大切なキーワードであるアナフィラキシーという病態が存在するからです。この病態は人が亡くなる可能性を含んでいます。アナフィラキシーは自己免疫系の過剰反応で、蕁麻疹に加え喉頭浮腫や血圧低下、下痢などの反応を起こします。この過剰反応は15分以内に発症し死に至る急激な経過をたどりますが、1時間を経過していれば発症はほぼしません。

2. ヒアリに刺されても1回目なら安全か?

このアナフィラキシーは感作といって2回目以降の抗原の再刺激によって引き起こされます。よって、ヒアリに刺された事が2回目であるかどうかということです。さらに、注意すべきポイントは、ヒアリについて最初に述べたように“ハチ目”に属するということです。つまり、蜂刺されにより感作されることで、ヒアリに刺された事が最初であってもアナフィラキシーを起こしてしまう可能性があるということです。

3. ヒアリに刺されてしまったら

しかし、いずれの場合もアナフィラキシー発症の目安は15分以内ということには変わりがありません。15分以内に蕁麻疹に伴い、呼吸困難感気分不快脱力感冷汗下痢などの症状が出現したら、必ず病院を受診することが必要です。そして、救急車を呼ぶ事も考慮しなければなりません。逆に、1時間経過しても上記の症状が出現しなければ、受診の必要が少ないと考えられます。ヒアリのアナフィラキシーの発症率は1.9〜10.4%とされ蜂刺傷の11.8%より少ないと認識されています。

病院に受診しなかったとしても、ヒアリ刺傷は非常に痛みを伴います。そして、刺傷の局所症状としては72時間程度で大きな紅斑に進展します。そして、皮疹としては1ヶ月程残存します。処置としては、冷却、鎮痛剤の内服になります。もちろん、家庭用の鎮痛剤内服で十分です。

4. おわりに

もし、怪しいアリを見かけたら、現在では保健所で情報収集を行なっていますので、発見時状況などの報告にご協力をお願いいたします。

最後に、繰り返しになりますが、ヒアリをはじめとして虫刺傷に置いて怖いのはアナフィラキシーであり、毒ではありません。蛇を除いて、日本に毒を持つ生物は多くはありませんので心配しすぎる必要はないでしょう。

まとめ

  • ヒアリの危険性は、刺されたことによって起こすアナフィラキシーショックにある
  • 蜂刺されの経験がある場合、ヒアリに刺されたのが初めてでも危険性は高い
  • 刺されて15分以内に症状が見られたら、急いで病院を受診すること