2018年11月号

フレイルとONS(栄養補助食品)

薬剤科 德長 ありさ

今回は、色々なところで耳にする「フレイル」と、フレイル対策に役立つ「ONS」について紹介いたします。

フレイルの概念

フレイルとは「加齢により心身の活力が低下した状態」を表し、「虚弱」を意味する英語「frailty」を語源にして、日本老年医学会が提唱した体の状態になります。

フレイルは「健康」と「要介護状態」の中間点に位置し(図1)、多くの人が健康な状態からフレイルの段階を経て要介護状態に陥るとされています。要介護状態は不可逆性が強いとされていますが、フレイルは可逆性があるとされている為、フレイルの兆候に気づいたら悪化しないようにできるだけ早く適切に対処することが重要となります。適切な対処によって、生活機能の維持・向上につながり、介護を必要とする期間を遅らせ、要介護期間を短縮できると考えられています。

フレイルの概念 (図1)フレイルの位置づけ

フレイルの判定基準

フレイルの判定基準については十分に確立していませんが、現在は日本版CHS基準(J-CHS基準)が繁用されており、5項目が判定基準にあげられています。(図2)

フレイルの判定基準 (図2)フレイルの判定基準

この判定基準にはサルコペニア(筋肉減弱症)の要素が含まれています。(サルコペニアについては注釈参照) 低栄養状態が続くとサルコペニアにつながり、サルコペニアになることでエネルギー消費量が低下します。その結果、食欲低下・食事摂取量の低下を招き、さらに低栄養状態を進行させます。このような低栄養状態の持続とサルコペニアが密接に関連していることをフレイル・サイクル(図3)として示すことができます。

フレイルの判定基準 (図3)フレイル・サイクル

注釈

サルコペニア(Sarcopenia)は、ギリシャ語由来の「Sarco(筋肉)」と「Penia(減少)」の造語で、1989年Rosenbergにより加齢に伴う骨格筋減少症として提唱されました。現在では、骨格筋量の低下とともに握力や歩行速度の低下などの身体機能の低下についても含めた概念となっています。

フレイルの予防・対策

フレイルは3つの要因が相互に関連していると言われています。

  • フレイルの予防・対策フレイルの予防・対策
    1. 体の衰え(身体的フレイル)
    2. 心・認知の衰え(精神的・心理的フレイル)
    3. 社会性の衰え(社会的フレイル)

フレイルの3つの要因(図4)を悪化させずに予防・改善するためには、3つの柱「運動」「栄養」「社会参加」が必要とされています。

  1. 運動…ウォーキング、筋肉トレーニング(筋トレ)
  2. 栄養…食事(たんぱく質をとりいれながらバランス良く)
    口腔内の定期的な管理(歯科検診など)
  3. 社会参加…友達と一緒に食事をとる
    サークル活動やボランティア活動に参加する
    習い事をする など

これらの要因のうち、医療用医薬品でお手伝いできる「栄養」の予防・対策の一部をご紹介します。

「食べること」は栄養をとること、「生き甲斐」や「楽しみ」を感じること、免疫力を維持・向上させることができます。しかし何らかの理由で「食べる力」が衰えると「栄養障害」が進み、要介護状態に至ります。(図1、図3参照)
「食べる」がうまくいかなくなったとき、ONS(Oral nutritional Supplements:栄養補助食品)を活用することで低栄養の進行を予防できます。ONSは少量でありながら高カロリーで必要な栄養素のほとんどを含有しており、食べられないときや食事量が減ったときに、食事で十分な栄養を摂れるようになるまで、健康維持の土台となる栄養(エネルギー源)として体を支えてくれます。

健康維持の土台となる栄養

現在、ONSは様々な製品が販売されています。医療用医薬品では主に4製品が使用されています。(表1)他にもご自身で購入可能な食品も多数販売されており、用途や味の好みにあわせて利用できます。
治療中の病気がある方や服用中の薬がある方がONSを活用する際は、医師・薬剤師・管理栄養士へご相談下さい。ONSによっては病気の治療や薬の飲み合わせに注意が必要となる場合もあります。

経腸栄養剤の種類 ラコールNF配合経腸用液 エンシュアリキッド エネーボ配合
経腸用液
エンシュアH
外観 ラコールNF配合経腸用液 エンシュアリキッド エネーボ配合経腸用液 エンシュアH
性状・包装 液体・200mL/包 液体・250mL/缶 液体・250mL/缶 液体・250mL/缶
特徴 1mLあたり1kcal
消化吸収に優れたMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)を含有。白糖を少なくし、
甘さ控えめ。包装がパウチパックのためゴミが少ない
1mLあたり1kcal
ラコールに比べ脂質が多い組成標準組成品で汎用されている
1mLあたり1.2kcal
セレン・カルニチン等の微量元素の他、食物繊維・フラクトオリゴ糖を
医薬品で初めて新規配合した経腸栄養剤
国内医薬品経腸栄養剤で唯一の 1mLあたり1.5kcal製剤であり、
少量でも高エネルギーを摂取できる
味が最も多い
エネルギー(kcal) 200 250 300 375
蛋白質(g) 8.76 8.8 13.5 13.2
脂質(g) 4.46 8.8 9.6 13.2
食塩相当量(g) 0.38 0.51 0.586 0.76
水分量(mL) 170 213 203 194

表1 医療用医薬品で利用できるONS

例年以上に暑かった夏が終わり、秋も深まってきているこの頃です。
秋からイメージする言葉は食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋などありますが、みなさんはどのような秋をお過ごしでしょうか。
フレイル予防も兼ねて秋を見つけに外出してみてはいかがでしょうか。