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2018年8月号

ダメ!! ゼッタイ!! ドーピング

薬剤科 飛田 孝之

今年の冬、2/9~2/25の17日間に渡って開催された「平昌オリンピック」は、胸が熱くなるような戦いでした。日本は冬季オリンピック最多の13個のメダルを獲得しました。本当に多くの感動があったかと思います。しかし、そんな中でもドーピングという悲しいニュースもありました。今回はドーピングについてお話ししたいと思います。

ドーピングとは

世界アンチドーピング機構(WADA)によるドーピングの定義は、表1の8項目のうち1項目以上の違反があることとされています。ドーピングというと薬のイメージが強いかと思いますが、特定の医療行為に関してもドーピングとなってしまう場合があります。

1. 競技者の身体からの検体に禁止物質、その代謝産物あるいはマーカーが存在すること。
2. 禁止物質、禁止方法を使用する、または使用を企てること。
3. 正式に通告された後で、正当な理由なく、検体採取を拒否すること。
4. 競技外検査に関連した義務に違反すること。具体的には、居所情報を提出しないことや連絡された検査に来ないこと。
5. ドーピング・コントロールの一部を改ざんすること、改ざんを企てること。
6. 禁止物質および禁止方法を所持すること。7. 禁止物質・禁止方法の不法取引を実行すること。
8. 競技者に対して禁止物質や禁止方法を投与・使用すること、または投与・使用を企てること、アンチ・ドーピング規則違反を伴う形で支援、助長、援助、教唆、隠蔽などの共犯関係があること、またはこれらを企てる行為があること。

(表1) ドーピングの定義

なぜドーピングがいけないのか

「ドーピング=よくないこと」という印象があるかと思いますが、そもそもなぜドーピングをしてはいけないのでしょうか? ドーピングという行為はフェアプレーの精神に反する、アスリートの健康を害する、反社会的行為であるといったスポーツの根幹を揺るがす行為になってしまうため世界的に禁止されています。

ドーピング検査の手順

ドーピング検査には血液検査と尿検査の2種類がありますが、今回は尿検査の流れについて説明させていただきます。

① ドーピング検査の通告を受け同意書に署名する
② 3つ以上の採尿カップから1つを競技者が選ぶ(図1)
③ 同性のドーピングコントロールオフィサー立ち会いのもと、トイレで採取。この際、競技者の体から出ていることを確認するためズボンなどはしっかり下ろす
④ 3つ以上のサンプルキット(検査キット)から1つを競技者が選び、2つの検体ボトルに分注する(図2)
⑤ WADA公認の検査機関にて分析する。1つの検体で陽性だった場合文書にて通知され、2つとも陽性だった場合14日以内に聴聞会が開催される

検査では常に第三者がいること、競技者自身が採尿カップなどを選ぶことが重要になってきます。このような方法をとることで外部からの禁止物質混入を防ぐことができます。


ドーピングと認定される禁止物質について

WADAが規定している禁止物質および禁止方法について表2にまとめました。この中からいくつかに注目して説明させていただきます。

常に禁止される物質と方法
(競技会時および競技会外)
競技会検査で禁止される物質と方法
[禁止物質][禁止物質]
S0無承認物質S6興奮薬 a 特定物質でない興奮薬
S1蛋白同化薬S6興奮薬 b 特定物質である興奮薬
S2ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質S9麻薬
S3β2作用薬S8カンナビノイド
S4ホルモン調節薬および代謝調節薬S9糖質コルチコイド
S5利尿薬および隠蔽薬特定競技において禁止される物質
[禁止方法]P1β遮断薬
M1血液および血液成分の操作
M2化学的および物理的操作
M3遺伝子ドーピング
(表2) 禁止物質

(1) 蛋白同化薬

服用することで筋肉量を増加、赤血球新生の増加(体内に多くの酸素を取り込むことができる)などの作用があります。いわゆる筋肉増強剤やステロイドと呼ばれているものがこれにあたります。

服用することのデメリットは男性の女性化、女性の男性化、うつ病の発症などがあります。長期服用によって性転換を余儀なくされた例もあります。

(2) β2作用薬、β遮断薬

βというのは体内の受容体の一種で刺激されると表3のような作用が起きます。β2作用薬というのは気管支を拡張するような効果がある薬剤のため、呼吸が楽になります。この薬剤は気管支喘息の治療に用いられることが多々あります。気管支喘息の競技者が治療を行いながら競技会に参加する場合は特に注意が必要となります。ただし、一部の吸入薬(サルメテロール、サルブタモール、ホルモテロール)に関しては使用していてもドーピングには認定されません。もしも、この3種類の薬剤以外を使用する場合は後述する治療使用特例(TUE)を申請する必要があります。

β遮断薬というのは表3に示した作用と逆の作用をするものです。β1が遮断されることで心拍数が落ち、落ち着いた状況でプレーすることができます。そのためアーチェリーや射撃、ダーツなどの一部の競技に関してのみ禁止となっています。

β1受容体心臓の収縮力、心拍数を増加
β2受容体気管支の拡張
β3受容体脂肪分解
(表3) β受容体刺激時の作用

(3) 利尿薬および隠蔽薬

利尿薬というのは排尿を促進する薬剤です。この薬剤自体は筋肉を増強したり、心拍数を下げたりする作用はありません。しかし、排尿を促進することで(1)(2)で示したような薬剤の痕跡を消す可能性があります。また、排尿促進によって体重の減少も考えられます。

禁止物質を治療に用いる場合について

競技者の疾患によってどうしても禁止物質を使用しなければならない場合が生じる可能性があります。その際は治療使用特例(TUE)を申請し、認められれば使用することができます。申請書は競技者のレベルや競技会の種類によって提出先が異なるため注意が必要となります(表4参照)

競技者提出先
IFの検査対象者登録リストの競技者IF
IFが指定した国際競技大会に参加する競技者
国際総合競技大会に参加する競技者主要競技大会機関(IOC、IPCなど)
上記以外の競技者日本アンチドーピング機構
(表4) TUEの提出先
※IF=国際競技連盟

市販薬、健康食品について

あまり知られていませんが、市販されている医薬品や健康食品の中にもドーピングになってしまう物質を含むものがあります。例えば、いわゆる風邪薬(総合感冒薬)や脂肪燃焼などを促すサプリメントは注意が必要となります。これらには表2の興奮薬にあたるエフェドリンという禁止物質が含まれていることがあります。その他にも禁止物質を含むものがあるため、「市販薬だから大丈夫」とは思わずに専門家に相談することが重要となります。

最後に

日本人の選手でもドーピングによって失格になってしまっているケースも残念ながらあります。多くの場合は「うっかりドーピング」によるものと言われています。「うっかりドーピング」というのは禁止物質が含まれているとは思わずに「いつも使っているから大丈夫」といった理由で使用してしまい、検査でドーピングが発覚することです。これは選手自身をはじめ、サポートする医療スタッフも知識を深めることで防ぐことのできるものです。まだまだ認知度は低いですが、スポーツファーマシストといった資格を持ちアンチドーピング活動を行っている薬剤師もいます。こういった活動を通して、いつかドーピングがゼロとなり純粋にスポーツを楽しめる日が来ることを願っています。