2021年7月号 ドクターコラム

小児の鼠経ヘルニア・臍ヘルニア

消化器外科 (小児外科) 芦塚 修一

ヘルニアとは...

一般的にヘルニアとは、体内の臓器などが、本来あるべき部位から「脱出・突出」した状態を指します。ここでは、子供によくみられる2つのヘルニア(鼠経ヘルニアと臍ヘルニア)について述べていきます。

1)鼠経ヘルニア

原因

小児の鼠経ヘルニアは、成人とは原因が異なっていて、腹膜鞘状突起(ふくまくしょうじょうとっき)という腹膜のポケット状の出っ張りが鼠径部に残っていることにあります。この腹膜鞘状突起とは,妊娠の後半に胎児(男の赤ちゃん)の精巣が腎臓の下あたりから鼠径部に下降して来る時に,腹膜が鼠径部に伸びてできたものです。女の子では精巣下降はありませんが、同じ現象が起こります。多くの場合は精巣が陰嚢内に下降した後は、自然閉鎖(退縮)してしまいます。右側にも左側にも出ることがあり、両側に認めることもあります。右側の方が左側よりやや多く、男の子のほうが多く見られます。

症状

よく見られる症状は、鼠径部や陰嚢・陰唇の膨隆で、泣いたり・排便で腹圧がかかったりした時に出現(脱出)し、オムツ交換時や入浴時に家族に気づかれることがよくあります。脱出するのは腸管(主に小腸)や大網で、小さな女の子では、卵巣・卵管が脱出することがあります。脱出は通常は自然または用手圧迫にて消失(還納)します。しかし、腸管の脱出が長時間続いた場合は、脱出した腸管の血液の環流が阻害され、腸管が浮腫んで容積が増大して還納が困難な状態になります。このような状態をヘルニア嵌頓(かんとん)と言います。嵌頓すると不機嫌・嘔吐・腹痛・鼠径部の圧痛を認めるようになり、進行すると腸管が壊死(組織が腐ること)する危険性があり早めの対応が必要です。また、男の子の場合は嵌頓後に血流障害が原因で精巣が萎縮することも稀にあります。

診断

  • 図1
    男の子の左鼠経ヘルニア
  • 図2
    女の子の右鼠経ヘルニア(卵巣脱出)
  • 鼠径部の診察や超音波検査で容易に診断がつきます(病院に来た時は、脱出してなくて診断が難しいこともあるので、自宅で脱出している時の写真を撮り、外来を受診すると有用です)。(図1,図2)

治療

治療は早めの手術が推奨されます。小児の鼠経ヘルニアは、ヘルニア嚢(腹膜鞘状突起)をお腹に近い高い位置で閉じる高位結紮(こういけっさつ)が基本です。手術は、鼠径部を2㎝弱切開する方法(Potts法)と腹腔鏡による方法(LPEC)があります。2つの術式にはそれぞれ一長一短ありますが、腹腔鏡の場合は、将来ヘルニアになる可能性がある腹膜鞘状突起を事前に見つけて同時に手術することができます。

2)臍ヘルニア

原因

赤ちゃんが生まれた後に臍の緒(へその緒)が脱落しますが、臍の緒が取れた部位では、臍輪が収縮し、腹膜と癒着して臍となります。臍が完全にできあがるまでに臍ヘルニアが発生し、強い腹圧などで突出がどんどん大きくなっていくことがあります。脱出した臍ヘルニアの中に腸管が脱出することがありますが、飛び出した腸管がヘルニアの出口で強く絞めつけられて血流が障害されると鼠経ヘルニアと同様に嵌頓(かんとん)といいます。しかし、鼠経(そけい)ヘルニアと異なり嵌頓を起こすことは極めてまれです。

症状

一般的に臍ヘルニアは無症状のことが多く、腹圧をかけると臍の部分が飛び出してきます。年齢が上がると稀に脱出時の違和感や痛みを訴えるお子さんもいます。また、嵌頓すると鼠経ヘルニアと同様に痛みや嘔吐なども出現します。

診断

  • 図3
    巨大臍ヘルニア
  • 新生児期または乳幼児期に、腹圧や立位になることで臍の膨隆を確認できます。膨隆している時にその部分を指で押すとグジュグジュと腸管が戻るような感触が判ることもあります。(図3)

治療

一般的に自然に治癒することが多い疾患です。生後3カ月前後で最も大きくなり、その後徐々に小さくなり、1歳ごろまでに80%以上、2歳までには90%近くが自然に治ると言われています。しかし、直径が3~4㎝程度の巨大な臍ヘルニアは自然治癒が難しく、自然治癒しても余剰な皮膚が多いために治癒した後の形状に見た目の問題が生じてきます。

  • 図4
    臍ヘルニアの圧迫療法
  • 最近では圧迫治療が行われるようになり、臍ヘルニアが大きくなる生後1~3カ月の頃に行うと自然治癒を促進できたり、治癒後の形状を改善させたりすることが可能です。透明の防水テープと市販の綿球・スポンジなどで圧迫は可能で、自宅でも継続できます(図4)。最近では専用の圧迫材も市販され、巨大な臍ヘルニアには有効なことがあります。圧迫療法の開始時期は、乳児期早期が望ましく、数週間から数カ月の継続が必要です。生後6ヵ月以降に開始するとあまり効果は期待できません。

2歳になっても、腹圧による臍の膨らみが見られると手術で治すことになります。また、見た目の問題は、成長とともに改善していきますが、臍の隆起が目立ち本人が気にするようであれば手術で見た目を改善させることもあります。