広報紙 vol.11しんゆりニュースレター

広報紙 vol.11しんゆりニュースレター

神経症状の速やかな回復を目指す
最先端の低侵襲脊髄手術

新百合ヶ丘総合病院 脊椎脊髄末梢神経外科
低侵襲脊髄手術センター センター長
みずの じゅんいち
水野 順一 医師
【プロフィール】
1976年名古屋大学農学部卒業。83年愛知医科大学医学部卒業。 3年6ヶ月間米国ジョージア州アトランタ市エモリー大学脳神経外科研修。92年愛知医科大学脳神経外科講師、 99年助教授。 2007年藤田保健衛生大学医学部脳神経外科助教授、08年准教授。10年総合南東北病院病院長。12年より現職。藤田保健衛生大学脳神経外科客員教授。順天堂大学脳神経外科非常勤講師。Udayana大学脳神経外科教授。

医学博士/日本脳神経外科学会専門医/日本脊髄外科学会理事・指導医/第29回日本脊髄外科学会会長
  • 脊椎脊髄末梢神経外科は、背骨(脊椎)とその中にある神経(脊髄、馬尾神経)の異常による痛みやしびれを治療する診療科です。骨が歪むことによって影響を受けた神経や、狭窄によりつぶれた神経を元に戻すことが、私たちの役割です。当科で診る患者さんの約8割を占めるのは、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症といった脊椎変性疾患です。これらの疾患においては、痛みやしびれを感じてから2~3ヶ月経ってもまだ症状が続いているようなら、迷わず当科を受診することをお勧めします。

    治療としては、まずお薬やリハビリなどの保存療法を行い、それでも治癒しなければ手術を施行します。20~30年前は保存療法の期間は1年程度でしたが、手術や麻酔の進歩に伴い、今は数週間で手術を行うことも多くあります。手術が遅れると効果が落ちることもあり、できるだけ早く決断した方がよいケースもあります。誰でも手術は嫌だと思いますが、終わってしまえば、「こんなに楽になるのだったら、もっと早く手術をすればよかった」とおっしゃる方も少なくありません。

    手術は、体にやさしい低侵襲脊髄手術を念頭において行っています。これまで低侵襲脊髄手術といえば顕微鏡を用いた手術がスタンダードでしたが、数年前から、内視鏡を使用した手術(保険適用)も行うようになりました。

  • 内視鏡の直径は7~16mmと細く、適応になる疾患は、首や腰の椎間板ヘルニア、比較的軽度な腰の狭窄症などです。内視鏡手術のメリットは、切開しないので出血が少なく、回復が早いため入院期間が短くてすむことです。早ければ2泊3日で退院できます。将来的には、安全性を確認でき次第、日帰り手術にしたいと考えています。手術には熟練した手技が不可欠であり、豊富な経験が必要とされますが、私たちには「安全で効果的な手術を提供できる」という自負があります。

    患者さんの困っている症状を治すこと、患者さんの年齢や体力に合わせた手術をすることを信条としています。外来では、患者さんの話をよく聞いて、患部を触って確認する、そのような丁寧な診察を心がけています。レントゲンやMRIだけに頼るのではなく、患者さんをきちんと診察することで、当院の最先端の医療機器を駆使した低侵襲手術が可能になるのです。

    今年度の手術件数は約430件にのぼります。また当科では学会や研究会に積極的に出席して、最新の治療法・問題等を発表しています。今後も、どの病院と比べても遜色ない治療を行えるよう、鋭意努力してまいります。

脊椎脊髄末梢神経外科の主な疾患と治療

【 主な疾患 】

頚椎椎間板ヘルニア

  • 頚椎椎間板ヘルニア
  • 頚椎椎間板ヘルニアは、骨と骨の間でクッションの役割をする椎間板が変性して脊柱管内にとび出て、脊髄や神経根を圧迫する病態です。若い人にもときどき見られます。症状は、圧迫されている場所によっても異なりますが、首の痛みやこり、手足の痛みやしびれなどがあります。脊髄が圧迫されている場合は、脊髄症状といって、手のしびれや運動障害が両側で発生するか、最初は片側だけでも後から反対側も現れることが多いです。また、足にも同様の障害が現れ、歩行障害に加えて膀胱直腸障害がみられることもあります。神経根が圧迫されている場合は、神経根症(根性疼痛)といって、首や肩の後ろや手指にかけて痛みがあり、圧迫されている神経根の支配領域のしびれや知覚異常などがみられます。

腰椎椎間板ヘルニア

基本的には頚椎椎間板ヘルニアと同じく、骨と骨の間でクッションの役割をする椎間板が変性脱出し、脊柱管内にある神経を圧迫し症状を出します。主な症状は、腰痛と下肢痛、筋力低下や感覚障害などです。坐骨神経痛の原因となっているのも、腰椎椎間板ヘルニアが多いです。また、膀胱直腸障害を発症することもあります。

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

  • 腰部脊柱管狭窄症

  •  腰部脊柱管狭窄症は、先天性のものもありますが、多くは50歳代から始まります。神経が脊柱管内で圧迫され、狭窄を起こすものです。その原因は、椎間板ヘルニアもある程度関係しますが、多くの場合は脊椎の椎間関節という部分が肥厚して脊柱管内に入り込んだり、黄色靭帯という組織が肥厚して脊柱管を狭窄するために起こります。もっとも典型的な症状は間欠性跛行といって、休み休みでないと歩けなくなる症状です。

【 治療法 】

治療法は、保存療法と手術療法に分けられます。脊椎脊髄の病気と診断された場合、最初に行われることが多いのが保存療法です。症状の軽減を目的として行われる対症療法であり、安静や薬物療法、理学療法、ブロック療法などがあります。しかし、頚椎症や椎間板ヘルニア、狭窄症のような変性疾患の場合、一定期間(数週間程度)保存療法を続けて効果がなければ、手術療法を行うこともあります。患者さんの症状がMRIなどのレントゲン所見と相関がある場合に、患者さんとよく相談して手術を行います。レントゲン所見が陽性であっても、患者さんの症状とは関係がなかったり、また患者さんが手術を希望しない場合には経過観察とします。手術は可能な限り低侵襲手術を選択し、入院期間は短く、早期に社会復帰できるよう考慮しています。

【 低侵襲脊髄手術 】

マイクロサージャリー(手術用顕微鏡を用いた低侵襲手術)

  • マイクロサージャリー
  • 手術用顕微鏡は脳神経外科の手術に使用されていますが、脊椎脊髄の手術に用いることで、患者さんに安心と結果を与えることのできる手術となります。ただ、手術を行う医師が顕微鏡の活用法を十分に熟知している必要があります。単に顕微鏡を虫眼鏡のように拡大鏡としてしか利用できないのでは不十分で、いろいろ工夫した顕微鏡の活用が求められます。マイクロサージャリーによる手術をうけた患者さんは、多くの場合、手術翌日から歩行、食事ができ、1~2週間で退院していかれます。脊椎周囲の筋肉、骨削除も必要最小限にとどめ、輸血は不要です。傷の痛みも多くは数日で和らぎ、通常の鎮痛剤を時に使用する程度です。マイクロサージャリーにて体にやさしい手術が可能となり、今では85歳くらいまでの元気な方に行えるようになりました。

内視鏡的腰椎椎間板ヘルニア摘出術(PELD)

 突然の腰痛や坐骨神経痛で発症する腰椎椎間板ヘルニアに対しては、手術の低侵襲化が進んでいます。経皮的髄核摘出術 (PELD) は、直径7~8mmの内視鏡により筋肉間からアプローチする方法なので、ほとんど出血もありません。非常に小さな皮切で済み、2泊3日の入院で可能です。
※小さな内視鏡を通じて手術をするため、椎間板ヘルニアの場所やタイプにより適応が難しいこともあります。

薬剤科コラム

  • NO DOPING
  • 薬剤科 飛田 孝之

    今年の冬、2/9~2/25の17日間に渡って開催された「平昌オリンピック」は、胸が熱くなるような戦いでした。日本は冬季オリンピック最多の13個のメダルを獲得しました。本当に多くの感動があったかと思います。しかし、そんな中でもドーピングという悲しいニュースもありました。今回はドーピングについてお話ししたいと思います。

【ドーピングとは】

  • なぜドーピングがいけないのか
  • 世界アンチドーピング機構(WADA)によるドーピングの定義は、下記の8項目のうち1項目以上の違反があることとされています。ドーピングというと薬のイメージが強いかと思いますが、特定の医療行為に関してもドーピングとなってしまう場合があります。

1.競技者の身体からの検体に禁止物質、その代謝産物あるいはマーカーが存在すること。
2.禁止物質、禁止方法を使用する、または使用を企てること。
3.正式に通告された後で、正当な理由なく、検体採取を拒否すること。
4.競技外検査に関連した義務に違反すること。具体的には、居所情報を提出しないことや連絡された検査に来ないこと。
5.ドーピング・コントロールの一部を改ざんすること、改ざんを企てること。
6.禁止物質および禁止方法を所持すること。
7.禁止物質・禁止方法の不法取引を実行すること。
8.競技者に対して禁止物質や禁止方法を投与・使用すること、または投与・使用を企てること、アンチ・ドーピング  規則違反を伴う形で支援、助長、援助、教唆、隠蔽などの共犯関係があること、またはこれらを企てる行為があること。

【なぜドーピングがいけないのか】

「ドーピング=よくないこと」という印象があるかと思いますが、そもそもなぜドーピングをしてはいけないのでしょうか? ドーピングという行為はフェアプレーの精神に反する、アスリートの健康を害する、反社会的行為であるといったスポーツの根幹を揺るがす行為になってしまうため世界的に禁止されています。

【ドーピング検査の手順】

  • ドーピング検査について
  • ドーピング検査には尿検査と血液検査の2種類がありますが、今回は尿検査の流れについて説明します。
     ①ドーピング検査の通告を受け同意書に署名する
     ②3つ以上の採尿カップから1つを競技者が選ぶ
     ③同性のドーピングコントロールオフィサー立ち会いのもと、トイレで採取。この際、競技者の体から出ていることを確認するためズボンなどはしっかり下ろす
     ④3つ以上のサンプルキット(検査キット)から1つを競技者が選び、2つの検体ボトルに分注する
     ⑤WADA公認の検査機関にて分析する。1つの検体で陽性だった場合文書にて通知され、2つとも陽性だった場合14日以内に聴聞会が開催される

     検査では常に第三者がいること、競技者自身が採尿カップなどを選ぶことが重要になってきます。このような方法をとることで外部からの禁止物質混入を防ぐことができます。

【市販薬、健康食品について】

あまり知られていませんが、市販されている医薬品や健康食品の中にもドーピングになってしまう物質を含むものがあります。例えば、いわゆる風邪薬(総合感冒薬)や脂肪燃焼などを促すサプリメントは注意が必要となります。これらには興奮薬にあたる禁止物質が含まれていることがあります。その他にも禁止物質を含むものがあるため、「市販薬だから大丈夫」とは思わずに専門家に相談することが重要となります。

【最後に】

日本人の選手でもドーピングによって失格になってしまっているケースも残念ながらあります。多くの場合は「うっかりドーピング」によるものと言われています。「うっかりドーピング」というのは禁止物質が含まれているとは思わずに「いつも使っているから大丈夫」といった理由で使用してしまい、検査でドーピングが発覚することです。これは選手自身をはじめ、サポートする医療スタッフも知識を深めることで防ぐことのできるものです。まだまだ認知度は低いですが、スポーツファーマシストといった資格を持ち、アンチドーピング活動を行っている薬剤師もいます。こういった活動を通して、いつかドーピングがゼロとなり、純粋にスポーツを楽しめる日が来ることを願っています。

専門外来のご案内

  • 粒子線外来 村上昌雄
  • 粒子線外来

    「切らずに治す」だけではなく、「切れないがんをも治す」陽子線治療を目指しています。

南東北がん陽子線治療センター センター長

村上 昌雄(むらかみ まさお)先生

医学博士/日本医学放射線学会専門医/日本放射線腫瘍学会認定医/日本医学放射線学会研修指導者/放射線治療専門医(日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会共同認定)

従来の放射線治療は照射によってがん細胞のみならず正常な細胞へも影響が及んでいました。しかし陽子線治療においては、陽子線の持つブラッグピークという物理学的特長を利用して、がんに集中した照射が可能になっていることが大きな利点です。2016年より小児がんに保険診療が認められていましたが、2018年4月より、頭頸部腫瘍(口腔、咽頭喉頭の扁平上皮癌は除く)、骨軟部腫瘍、前立腺がんにも保険適応が可能となりました。

専門外来の特長


陽子線治療の適応になるかどうかの判断をいたします。可能と判断された場合、治療開始の日程等の予約をいたします。治療後の経過観察もいたします。

代表的な対象疾患


1)保険診療が可能な疾患
頭頸部腫瘍、骨軟部腫瘍、前立腺がん、小児腫瘍

2)先進医療が可能な疾患
脳腫瘍、頭頸部腫瘍(口腔、咽頭の扁平上皮がん)、肺がん、縦隔腫瘍、食道がん、肝がん、胆管がん、膵がん、腎  がん、膀胱がん、各種がんの肺転移、肝転移、リンパ節転移

3)自由診療が可能な疾患
上記以外の疾患で、陽子線治療が臨床的に有益な結果をもたらすと予想される場合、あるいは外国人

4)南東北がん陽子線治療センターが注力している治療法
1.頭頸部腫瘍(舌がん、上顎がん、咽頭がん、頸部リンパ節転移など)に対する動注療法、IMRT(強度変調放射線治療)、陽子線治療の集学的治療
2.Ⅲ期肺がん(局所進行肺がん)に対する化学陽子線療法
3.間質性肺炎や閉そく性肺疾患など低肺機能を合併する肺がんに対する陽子線治療
4.食道がんに対する化学陽子線治療
5.肝がん、胆管がんに対する陽子線治療
6.切除不能膵がんに対する化学陽子線治療
7.膀胱がんに対する化学陽子線治療
8.前立腺がんに対する短期陽子線治療
9.オリゴ転移に対する陽子線治療
10.放射線治療後の再発例に対する陽子線治療
11.消化管に近接する腹部臓器がんに対する異物を利用しないスペーサー手術後の陽子線治療

診察日

◆6月8日・22日/7月6日・20日 金曜日 14:00~(予定)
外来診療予約専用TEL(通話料無料) 0800-800-6456【予約制】
※外来診療担当表をご確認の上、ご予約をお取りいただいてからご来院ください。

講座・イベントのご案内

◆医学健康講座 ※時間…14:00~15:00/会場…STRホール(新百合ヶ丘総合病院3F、定員150名、先着順)
6月13日(水) 脳動脈瘤に対する血管内治療 脳神経外科 森谷 匡雄 先生
6月15日(金) 粒子線治療、陽子線治療とは? 総合南東北病院
放射線治療科 山口 久志 先生
6月22日(金) 健康診断における画像診断の役割
~各検査の特徴をいかして賢く健診を受けましょう~
※講座前「友近890(やっくん)の笑顔を届けるコンサート」開催
放射線診断科 部長
吉原 尚志 先生
◆市民医学講演会 ※時間…14:30~15:30
6月1日(金) すい臓がんについて
~症状・診断・治療戦略~
副院長、消化器外科 部長
田辺 義明 先生
小田急ホテル相模大野
8F相模野(定員120名)
6月4日(月) ~加齢に伴って頻度が増える不整脈~
心房細動の治療法
循環器内科
佐藤 弘典 先生
稲城市立ⅰプラザホール
(定員120名)

※ 講座の講師及び演題は予告なしに変更になる場合がございます。

2018年4月の救急車受け入れ台数は511台でした。