2021年1月号 ドクターコラム

頭痛事始め その2
「危ない頭痛と片頭痛」

脳神経救急 外傷センター センター長 鈴木 倫保

「ドクターコラム」の読者の方々に、前回に引き続き、頭痛の診断・治療について新たな流れをお話します。第二回は「危ない頭痛と片頭痛」です。
第一回コラム 頭痛事始め その1 「むち打ち症と髄液」はこちら

前回は交通事故やスポーツ外傷が原因の慢性頭痛のお話でした。最近ではその原因の1つとして「片頭痛」も関与していることが大きな話題になっており、第三回にはそのお話しをしようと思います。今回はその予習も兼ねて頭痛一般のお話をしようと思います。

頭痛には、命に関わる「危ない頭痛」と、「片頭痛」のような直接命には関わらないが、生活の質を極端に下げてしまう「慢性頭痛」があります。

危ない頭痛

危ない頭痛は50歳以上の比較的高齢者に多く、原因となる疾患があり、そのために頭痛が生じます。二次性頭痛と呼ばれます。

① くも膜下出血

<代表的な症状>
  1. 何時何分と言えるぐらい突然な発症で、今までに経験の無いほど強い頭痛(医療従事者は雷鳴頭痛:雷に打たれたような痛み、と言います)
  2. 嘔気・嘔吐があれば確率が高くなる
  3. 意識障害が合併すればほぼ確定的
ですが、症例によっては頭痛は軽くて、視力視野障害複視(物が2重に見える)や、一方のまぶたが下がる(眼瞼下垂)等の目の症状で発症する方もいるので要注意です。

医師によるくも膜下出血の見逃しは、日本脳神経外科学会から報告された事があり、5〜8%にも上ります。くも膜下出血の診断は、結構困難である事も覚えておいてください。

私達の研究では、症状が軽くて夜間等で受診を控えることや、救急車を使用しないで歩いて来院された方(walk in、と言います)の場合は、くも膜下出血が見逃され易いとされています(図1)。

くも膜下出血(SAH: subarachnoid hemorrhage)の診断遅延(図1)くも膜下出血(SAH: subarachnoid hemorrhage)の診断遅延(見逃し)

山口大学の研究では、救急車で来院した患者さんの診断遅延は10%に過ぎず、その大半は患者さん自身が来院を躊躇する事にあった。しかし、救急車以外のwalk inでは患者さんが発症当日来院しても医師による見逃しが全体の1/4、患者さんが発症当日来院しなかった症例が1/4と、発症当日に診断されたのは半数に過ぎなかった。

是非、夜間であっても「くも膜下出血かな?」と思うときには、躊躇無く救急車でご来院ください。理由は、くも膜下出血で最も予後が悪くなる原因は再出血で、初回出血から6時間以内に多いとされ、最悪死亡に直結しますので、発症後直ちに診断する必要があります。同様な雷鳴頭痛で、可逆性脳血管攣縮症候群:RCVS(Reversible cerebral vasoconstriction syndrome)と言う病気もありますが、専門医で無いと診断できませんので、「雷鳴頭痛」があったらまず病院を受診する事が最善と考えています。

② 椎骨動脈等の解離

突然の頭痛、脳梗塞、出血等多彩な症状があります。頭痛が起こってからしばらくして(長くても2週間以内)も、くも膜下出血が発症することが有り訴訟の多い病態です。整体やカイロプラクティック、或いは理容/美容室で洗髪の際に首を後に反らすことでも起こりますので、医療従事者のみならず患者さん自身も注意が必要です。

③ 髄膜炎

髄膜炎は細菌或いはウイルスによる脳表面の髄膜の炎症で、高熱を伴うことが多く、徐々に痛くなります。

④ 脳腫瘍

脳腫瘍進行性の頭痛で、起床時に強いと言われています。運動・感覚障害、てんかん、意識障害等他の神経症状を伴うことが多いです。

慢性頭痛

他に原因となる疾患が無い慢性に起こる頭痛で、一次性頭痛と呼ばれます。
日本では15歳以上の国民の4割が悩まされているとも言われています。

① 緊張型頭痛

頭全体が締め付けられるように痛み、全国で2000万人と最も頻度が多いと考えられています。

② 片頭痛

光、音が気になり、頭の片側がズキズキと数時間〜数日拍動性に痛みます。患者さんは800万人以上いるとされてきましたが、緊張型頭痛と合併する事も多く、詳細に検討すれば更に多いと考えられています。女性に多く、月経に関連して起こることも多いとされています。

③ 群発頭痛

一定期間(週~月)、ほぼ連日数十分~数時間片目の奥や側頭部に激痛を感じます。痛む側の涙、鼻づまり、鼻水を伴うことが多いです。十数万人の患者さんがいると推定されています。

④ 薬の使いすぎによる頭痛

頭痛の治療では主治医泣かせの疾患で、全国で200~300万人居ると考えられています。頭痛薬(痛み止め)を月に10~15回以上使用する場合に疑われます。該当する薬を中止すれば速やかに改善すると安易に考えられがちですが、原因が薬のみでは無く、生活習慣、睡眠障害、精神疾患の影響が多く、難治です。最悪の場合は入院が必要となることもあります。

片頭痛

診断

これまで御自身が「片頭痛かな?」と心配に思われた方は、比較的多くいらっしゃるのではないでしょうか?

簡単な見分け方は、
  1. 頭の片側が痛む
  2. ズキズキと拍動性に痛む
  3. 仕事や勉強に支障が出る
  4. 体を動かすと痛みが強くなる
  5. 頭痛に吐き気を伴う
  6. 光りや音に過敏になる。
①~④のうち2つが当てはまる + ⑤か⑥のうち1つが当てはまれば、片頭痛と考えられます。

前兆:イライラ、あくび、目のチカチカ(閃輝性暗点)が起こる方もおり、診断の参考になります。

片頭痛の原因は、現在でも詳細には理解されていませんが、「三叉神経」「視床下部」「脳と脳の血管」が深く関わると考えられています(図2−A、B)。

誘因は強い光、人混み・騒音、寝不足、ストレス、アルコール等、避けることが可能な場合もありますが、経・排卵・閉経や天候の変化など避けられない事も多く、悩まれる患者さんが大変多いのが実情です。

衆瞽象を撫づ図2−A 日本の浮世絵師
英一蝶 (1652 – 1724) による
『衆瞽象を撫づ』
片頭痛の原因は現在でも
この浮世絵が物語るように
判然としていない。
衆瞽象を撫づ図2−B 片頭痛の病態
濵田潤一 臨床神経(2008)より
未だに片頭痛の原因については諸説有るが、
視床下部、脳と脳の血管、三叉神経とが
関係すると考えられることが多い。

頭痛ダイアリー

  • 頭痛ダイアリーの一例図3 頭痛ダイアリーの一例
  • 診断や予防に頭痛ダイアリーが役に立ちます。痛みの性状(程度、時間、吐き気の有無)、発症時の日常生活(誘因、月経、天候、ストレス)の状態や仕事や勉強への影響、薬の使用状況を記録すると医師の診断や投薬設計に必要なだけではなく、患者さんの予防対策にも大変役に立ちます。(図3)

頭痛の治療について

症状が軽ければ、静かな暗い部屋で安静にすることや、市販の頭痛薬で収まることもありますが、日常生活に支障があれば頭痛の専門医に相談するのが良いと思います。
薬物療法が主ですが、「トリプタン」と呼ばれる薬のグループがあり、よく使用されます。

・三叉神経の炎症を抑える、・脳の血管を収縮させる作用で、片頭痛を改善します。注射・経口・点鼻薬等、剤形が多くありますので、片頭痛が起きたらなるべく早く使用するのがキモです。

但し、血管を収縮する作用があり副作用も懸念されるので、医師の診断と処方が必須です。脳梗塞・心筋梗塞・重症高血圧・重症肝及び腎障害・閉塞性動脈硬化症の患者さんは使用できないので、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)が処方されます。挙児希望(不妊治療)・妊娠中・授乳中の女性は、医師と相談することが勧められます。

最近、欧米では新しいタイプの片頭痛に対する薬物が開発されています。片頭痛の原因として、三叉神経から脳の血管に放出されるCGRP(calcitonin gene-related peptide)(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)と言う物質がありますが、CGRPそのものや受容体に対する抗体、或いは受容体拮抗薬が開発されて、片頭痛の予防や急性期治療のデータが集まりつつあります。

日本でも早く認可されることを望んでいます。次回は、頭頸部外傷後の慢性頭痛の「真犯人」探しの旅・・・その続編ですが、このCGRPが出てきます。乞うご期待。