ドクターコラム

心房細動をみつけるための診断法について
~心電図診断の現状と今後~

循環器内科 部長 畔上 幸司

掲載日:2020年2月21日

はじめに

心房細動が脳梗塞の原因となる病気であることは知っていても、心房細動がどのように診断されるかを正しく理解している人は少ないものと思われます。本コラムでは、心房細動とその心電図診断について、最新の話題にも触れながら分かりやすく解説したいと思います。

心房細動とは

心臓は心房と心室が心房→心室の順に連動しながら一定のリズムで拍動しています(図1A)。全身に血液を送り出しているのは心室の拍動です(これを心拍といいます)。心房細動は、心房内の電気信号の乱れにより心房が細かく震えた状態となり、これにより心室の拍動が速く乱れた状態となる不整脈です(図1D)(参照:日本心臓財団ホームページ)。

心房細動は、脳梗塞や心不全の原因疾患として重要です。心房細動では、心房内の血流が停滞することにより心房内血栓が形成され、これが血流に乗って頸動脈へと流れ飛び、脳血管を詰まらせてしまうと脳梗塞が発生します(図2)。心房細動による脳梗塞はノックアウト型と呼ばれるように大きな後遺症を残すことが多く、その後の人生を左右する大きな問題といえます。また、心房細動では、心臓の拍動がリズム不整の頻拍状態となり、これが続くと心不全が発生し救急医療が必要な事態をまねくことがあります(図3)

(図1)
多種多様な遺伝子変異をもつ骨髄心房細動とは腫細胞

(図2)
心房細動による脳梗塞
 MRIによる脳血管(MRA)と脳血流(ASL)画像

心房細動による脳梗塞
  • (図3)
    心不全のレントゲン

    心不全のレントゲン
  • 心房細動が生じた場合、症状としては動悸・息切れ・めまいなどが多く、脈の乱れに気がついて来院する患者さんもおられます。一方、何ら自覚症状のない「無症候性」とよばれる心房細動も少なくありません。心房細動は発作性持続性にタイプ分けされます。発作性心房細動は短時間(発症後7日以内)で元の正常な心拍に戻るタイプ、持続性心房細動は発症後7日以上心房細動が持続しているタイプで、長期的な経過の中ではこの順に進行するとされていいます。

心房細動の心電図診断

さて、心房細動という病気のイメージはつかめたでしょうか。ここから本題の心房細動の心電図診断について解説して行きます。

心房細動の診断は心電図によって行われます(心電図は心臓が拍動するときに発生する微弱な電気活動を体表から記録し、その波形により心臓の状態を類推する検査手法です。参照:2018年7月号ドクターコラム)。通常、症状や身体所見のみで心房細動と診断することはいたしません。これは、他の不整脈でも心房細動と似た症状あるいは心房細動と紛らわしい脈の異常を認めることがあるからです。

例えば、期外収縮(図1B)という不整脈が頻発した場合、自覚症状も脈の異常も心房細動と区別できないことがあります(図1C)。しかし、心電図パターンをみくらべてみるとその違いは明らかです。心房細動では、心房波(P波)が不明瞭となり基線が細かく波打つ細動波(f波)を呈し、心室波(QRS波)の間隔は完全にバラバラとなります(図1D)

このように、心房細動が起こっている状態で心電図を記録できれば、心房細動の診断は容易です。したがって、持続性心房細動の患者さんにおいては、常に心房細動の状態にあるわけですから、心電図さえ記録できればその場で診断がつきます。しかし、発作性心房細動の患者さんにおいては、心電図をとる時点で心房細動が起こっていなければ心房細動の診断は確定しません。

極端な例を挙げますと、ある患者さんが動悸を訴え診療所を受診、診察室で医師により脈の不整を確認されましたが、検査の直前に動悸症状がピタッと治まってしまい心電図も正常な波形だった。このような場合、心電図により心拍の不整が記録できなかったため、仮に動悸症状の原因が心房細動であっても心房細動とは診断できません。心房細動の診断には、心房細動が起きているその瞬間の心電図記録が必要となるわけです。心房細動と診断できなければ脳梗塞の予防的治療も開始できません。これは、心房細動以外の不整脈を診断する過程でも同様です。

ホルター心電図と携帯型心電計について

ときどき動悸症状が起こるという発作性心房細動の患者さんでは、ホルター心電図あるいは携帯型心電計という機器により、動悸症状が起きたときの心電図波形を評価することにより心房細動かどうかを判定します。

ホルター心電図(図4)とは、前胸部に数枚のシール状の電極は貼り、電極からのびた誘導コードをレコーダーに接続、このレコーダーを装着し長時間にわたって心電図を連続記録する心電図のことです。レコーダーは幅4cm×高さ4cm×厚さ1cm(重さ17g)~6 cm×8 cm×2 cm(50 g)と小型で防水仕様のタイプもあり、24時間~14日間の連続記録が可能です。日常生活の中で心電図を記録することにより、症状が起きたときの心電図波形を確認することができます。動悸症状がほぼ毎日、あるいは週に何回か起こるという患者さんに適した検査となります。ただ、ホルター心電図の装着中に症状が出なかったり不整脈が起こらなかったりした場合には診断に至りません。


(図4)
ホルター心電図

ホルター心電図
  • 心不全のレントゲン
    (図5)携帯型心電計
    写真提供:checkme(三栄メディシス株式会社)

  • 携帯型心電計(図5)とは、文字通りコンパクトな持ち運び型の心電計で、家庭や外出先で症状が出たときの心電図波形を記録する装置です。

    心電計は8.8cm×5.6cm×1.3cm(68g)~12.1cm×6.7cm×2.4cm(重さ130g)の大きさで、手のひらや前胸部に当てるだけでその場の心電図波形をリアルタイムに記録することができます。症状が出たときの心電図波形を記録していただき、後日その波形を医師に見てもらい診断に役立てます。

たまに動悸症状が起こるという患者さんに適した検査法といえます。最近、心電図機能付きのスマートウォッチが多数販売されており、不整脈の検出を目的に利用される方も少なくないようです。残念ながら、日本ではまだ心電図機能付きスマートウォッチは医療機器として承認されておらず医療用の補助機器として使用することはできません。しかし、昨年米医学情報誌に心房細動の検出に関するアップルウォッチを用いた40万人規模の調査結果が報告され(N Engl J Med 2019;381:1909-17)、課題は残るものの一定の有用性は認められたとする声も多く、今後の展望に期待がよせられる結果となりました。

無症候性心房細動と植込み型心電図モニター

心房細動の診断で最も難しいのが、症状のない患者さんをどのように検出するかという問題です。心房細動をもつ患者さんの約半数は自覚症状がないため心房細動という不整脈に気が付いていないという調査結果があります。このようなタイプを「無症候性」の心房細動といいますが、いわゆる「隠れ心房細動」のことです。

無症候性の心房細動であったため放置してしまう結果となり、ある日脳梗塞を発症して初めて心房細動の存在が判明したというケースは少なくありません。無症候性の心房細動が健康診断や他の病気(風邪や高血圧症)で診察を受けた際に偶然発見されたというケースも相当数存在します。

ここまで読み進んでいただけた方には、無症候性の発作性心房細動の診断が容易でないことをご理解いただけたかと思います。一方、無症候性の心房細動を検出することの重要性について多くの専門家が指摘しています。心房細動に起因して発生する脳卒中は、世界全体でみますと年間300万件ともいわれます。ドイツの某製薬メーカーは、心房細動を適切に管理することにより脳卒中を未然に防ごうとするキャンペーンを展開しています(1 Mission 1 Million心房細動に起因する脳卒中100万件を未然に防ぐ)。

心房細動に起因する脳卒中の予防を進めるうえで、無症候性の心房細動をいかに正確に検出し適切なコントロールを差し向けるかが1つの大きな課題となります。現時点では、日本脳卒中協会と日本不整脈心電学会が一般市民に対して自分で脈をチェックする習慣を呼びかけており、3月9日を「脈の日」として登録しました。この活動は、一見地味にみえますが非常に有効な取り組みとなりました。脈の不整に気が付き、これを契機に無症候性の心房細動がみつかったという患者さんが増えてきたように感じます。

  • 植込み型心電図モニター
    (図6)植込み型心電図モニター

  • 携帯型心電計(図5)とは、文字通りコンパクトな持ち運び型の心電計で、家庭や外出先で症状が出たときの心電図波形を記録する装置です。

    心電計は8.8cm×5.6cm×1.3cm(68g)~12.1cm×6.7cm×2.4cm(重さ130g)の大きさで、手のひらや前胸部に当てるだけでその場の心電図波形をリアルタイムに記録することができます。症状が出たときの心電図波形を記録していただき、後日その波形を医師に見てもらい診断に役立てます。

また、脳梗塞を発症した患者さんの中で心房細動が原因であったかもしれないと思われる患者さんに対する診断法(潜因性脳梗塞の心房細動診断)として植込み型心電図モニター(図6)があります。
植込み型心電図モニターは45mm×7mm×4mm(2.5g)の非常に小さなスティック状の心電計で、前胸部の皮下に局所麻酔を用いて低侵襲な手技により植込み、最長3年間にわたって日常生活の中で心電図を記録する機器です。

脳梗塞で入院した患者さんにおいて、心電図モニターにより心房細動の存在が後になって判明する場合があります。ある調査によりますと、原因不明の脳梗塞患者に植込み型心電図モニターで経過をみたところ、脳梗塞の発症から0~154日後(中央値48日)までに25.5%の患者で心房細動が記録されたといいます(Neurology 2013;80:1546-50)。

このような心房細動の検出は、ホルター心電図や携帯型心電計では難しいものと思われます。無症候性でまれにしか起きない発作性心房細動においては植込み型心電図モニターが心房細動の早期発見に有用な診断機器となることが理解できます。

新たな診断法と今後の展望

最後に心房細動の診断に関する今後の展望についても少し触れたいと思います。これまで心房細動の診断は心房細動の心電図をドキュメントすることによって行われて来ました。しかし、最近、人工知能(AI)を用いた心電図の分析により将来の心房細動の発生リスクを予測しようとする研究が話題となっております。

米国Mayo ClinicのAttia博士らは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)という深層学習の手法を用いてAIに大量の心電図を機械学習させることにより、心房細動が起きていない状況で記録した正常リズムの心電図から心房細動の有無を予測できるアルゴリズムを開発しました(Lancet 2019;394:861-67)。このようなAI技術は、無症候性の発作性心房細動の早期発見に飛躍的な進歩をもたらすものと思われ今後の動向が注目されます。

なお、心電図以外の領域でも心房細動の存在を予測する新たな検査法の開発が進められており、今後心房細動の早期発見に活用されうる方法として、心房細動患者のゲノム解析により同定された遺伝子マーカーや、心房細動で発現するマイクロRNAミトコンドリア由来セルフリーDNAなどのバイオマーカーが注目されます。

おわりに

以上、心房細動の心電図診断について解説いたしました。心房細動は放置すると怖い病気であるといえます。皆様に心房細動の診療を正しく理解していただくうえで、本コラムがお役に立てば幸いです。